事業譲渡契約書とは?事業譲渡の基本から契約書に含めるべき項目や注意点を解説!
事業承継・相続対策
2024.11.01 ー 2024.11.06 更新
本記事は、事業譲渡契約書の記載事項や作成の際の注意点などを解説しています。前提として事業譲渡契約の基本や特徴についても簡単にふれています。
高齢化に伴い事業承継を考える中小企業の経営者や、事業譲渡を勉強中の専門家の方、また事業を購入しようとする個人・法人の方になどに、事業譲渡契約の基本をお伝えする内容になっておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
また事業承継を考える際は、事業譲渡のほかに株式譲渡や会社分割等の手続きも考えられます。個別の悩みに合った最適な選択をするには、早めに専門家である弁護士や司法書士に相談するとよいでしょう。
事業譲渡契約書とは
事業譲渡契約書とは、ある企業や個人事業主が事業の一部または全部を他の企業や個人事業主へ譲渡する際に締結する契約書です。
事業譲渡契約書の概要
事業譲渡契約書は、以下のような項目を具体的に記載して作成します。
- 譲渡する事業の内容や現物資産の範囲
- 譲渡の対価や金額、支払い方法と支払い時期
- 譲渡に伴う双方の義務や責任、保証事項
- 従業員の雇用契約の引継ぎに関する条件
- 契約締結後の遵守事項や連絡先の変更手続き
- 譲渡条件違反時の損害賠償や契約の解除条件
これらの内容は、譲渡者と譲受者が納得のいく形で合意し、両者の権利と義務が明確になるように記述することがポイントです。
また、事業譲渡契約書には契約金額に応じた印紙税が必要となります。
事業譲渡契約書が必要となる場面
事業譲渡のスキームを活用できる場面は、以下のようなケースです。
- 会社の経営権を引き継ぐ場合
- 事業の一部門を他社に移管する場合
- 株式の一部を譲渡し、他社に承継させる場合
- 債務整理や経営再建のために事業の一部を売却する場合
事業譲渡契約と株式譲渡の違い
事業譲渡は、譲渡する事業の範囲を個別に細かく設定できる契約です。
例えば会社が事業譲渡を行う際は、商号および法人格、従業員のほか知的財産権等を自社に残したまま事業の部分のみを他社に譲渡することも可能であり、事業の一部だけの譲渡も可能です。
一方、株式譲渡は株式を売買することで企業のオーナーシップを移転させるスキームです。
株式譲渡は会社をそっくりそのまま譲渡することであり、会社の株主(所有者)のみが変わることになります。会社と取引相手との債権債務関係や、従業員との雇用関係に変化はなく個別的な契約の引継ぎも不要です。
ただし株主が変更になれば取締役等の役員変更が行われる可能性があり、会社運営体制にも大きな変化が起こる可能性があります。
事業譲渡と株式譲渡の違いを理解し、自社の目的や状況に沿った方法を選択することが重要です。
事業譲渡契約と会社法の関係
事業譲渡契約は会社法で定義される『組織再編』に該当せず、契約書に記載すべき事項についても会社法による規定はありません。
株式会社同士の取引である必要もなく、会社と個人事業主間でも成立するのが事業譲渡の特徴です。
一方で、会社法上の組織再編(合併・分割など)で利用できる一括での債権者異議手続き等が事業譲渡では活用できず、譲渡する事業についての個別の権利移転が必要になります。
ゆえに、取引を継続する相手との債権債務の移転や、従業員との雇用関係の移転も個別に承認を取る必要があるため、こうした移転の契約書が膨大な量になる可能性があります。
なお会社法では、事業譲渡を行う際に以下のような場合には株主の承認(株主総会の特別決議)を得る必要があると定められています。
譲渡会社の場合
- 事業の全部の譲渡
- 事業の重要な一部の譲渡(総資産の5分の1を超える譲渡)
- 事後設立によって事業を譲受する場合
譲受会社の場合
- 他社から譲受する事業に対して支払う対価が自社の総資産の5分の1を超える場合
会社法以外の法令により、譲渡する事業の種類によっては営業許可等の再取得が必要になる場合もあります。
事業譲渡契約書を作成する際は弁護士等の専門家と相談し、法律に則った内容で契約を進めることが重要です。
事業譲渡契約書を結ぶ重要性
事業譲渡契約書を結ぶことは、双方の企業にとって財産やリスクを適切に管理し、将来のトラブルを防ぐ上で非常に重要です。
事業譲渡契約書で譲渡対象の範囲や対価等、リスクの分担等を明確化することで双方の権利と義務が保障され安心かつ円滑に取引を進めることができるためです。
また、競業避止義務を認知させ事業譲渡後の権利を保護する目的も含みます。
事業譲渡契約書の記載事項
事業譲渡契約書は、事業の権利義務を譲渡する際の重要な書類です。一般的な記載事項は以下の通りです。
- 当事者の特定
- 事業譲渡の合意
- 譲渡の実行日
- 譲渡する事業および資産の範囲と譲渡対価
- 従業員の取扱い
- 表明保証
- 前提条件
- 遵守事項
- 競業避止義務
- 秘密保持
- 補償
- 契約解除
- 公租公課の負担
- その他一般的な事項
これらのほか、実態に合わせて個別的に必要な事項を含めていきます。各項目をしっかりと記載し、両者の合意が明確になるように契約書を作成することが大切です。
以下、各項目について簡単に解説していきます。
1.当事者の特定
契約書では、まず当事者を次のように特定して甲、乙等と定義するのが一般的です。
『〇〇(以下、「甲」という)および△△(以下、乙という)は、次の通り事業譲渡契約を締結する。』
2.事業譲渡の合意
次に契約の成立を明確にする条項を記載します。
民法上、契約は互いの合意によって成立します。契約成立の有無は法律上重要なポイントになるため、事業譲渡契約成立の事実を次のように記載します。
『甲は乙に対し、甲が営む〇〇事業を譲渡し、乙はこれを譲り受ける。』
3.譲渡の実行日
事業譲渡の手続きは一定の準備が必要であるため、契約を結んでから取り決め通りの準備やデューデリジェンスを行い、定めた期日に事業の譲渡および対価の支払いを行うのが一般的です。
そのため、契約段階において事業譲渡実行の期日や最終期限などを設定します。
契約で定めた条件のとおり準備が整えば、実行日に譲渡を実行(クロージング)するか、期限のみを定めていた場合には改めて実行日を定めてクロージングを行います。
4.譲渡する事業および資産の範囲と譲渡対価
事業譲渡においては、譲渡する財産を詳細に設定する必要があります。
具体的な対象には以下のようなものがあります。
- 資産: 不動産や設備、機器、車両、営業権など。
- 従業員: 雇用契約の承継
- その他の債権、債務債権債務: 取引先との契約、保証契約、賃貸借や売掛金など
事業譲渡契約書を作成する際は対象物を明確に記載することが重要です。併せて、譲受人が対価として差し出す金銭の額や支払い方法等も記載します。
譲渡金額の設定は、次のような要素を考慮して買い手と売り手の交渉によって定めます。
- 事業価値の査定: 専門家の意見を取り入れたり、財務データや市場状況をもとに算出。
- 資産の評価: 資産(不動産や設備等)の時価や継続使用価値を評価。
- 収益性の分析: 売上や利益、成長性等の収益性を検討。
- リスク要因の考慮: 事業のリスク要因や競合状況、法令遵守等を評価。
適切な譲渡金額を設定するためには、専門家のアドバイスを受けたり、充分な情報収集や分析が重要となります。
5.従業員の引継ぎ
事業譲渡において、従業員の引継ぎは大変重要なポイントです。
雇用契約ごと従業員を譲渡する場合、第三者への債権債務の譲渡にあたるため、従業員それぞれの承諾が必要になります。
契約上の定め方としては、譲渡対象とする従業員名簿を作成し、そのうち転籍を承諾する者との間で新たに雇用契約を結ぶ、と定めるなどの方法があります。
契約書には、その条件等を記載します。
6.表明保証
表明保証とは、企業取引において自社の対象資産や法的紛争の状況などについて、事実に基づいた正確な情報を提供すると表明し保証することです。
譲渡者側の従業員の労働環境、取引相手からの信頼度、評判などの無形の資産や情報は、買主が事前に調査するには限界があります。
そのため、譲渡者側は自社のこのような項目について違法性や誤りがないことを保証し、仮に違反が見つかった場合には契約の解除や金銭的補償を行う旨を契約の内容として記載します。
表明保証の対象とする項目には次のようなものがあります。
- 事業活動および会社運営、登記等が適法であること
- 契約違反の有無
- 訴訟や紛争の有無
- 債務・債権の状況
- 知的財産や不動産の取得状況
- 税務に関する遵守
- 従業員の雇用条件が労働法に違反しないこと、未払いの残業代がないことなど
表明保証の遵守は、買い手の安心のための重要なポイントです。同様に、買い手から売り手への表明保証も契約書に記載します。
事業や資産の価値が正確に伝わることで取引が円滑に進み、適正な価格での売却が期待できます。
買い手と売り手双方とも、リスクの回避や適切な投資判断が可能となります。
7.前提条件(クロージング条件)条件
前提条件とは、事業譲渡を完結させるために必要な条件です。
譲渡人と譲受人は株式譲渡の実行日までに契約書で定めた条件を互いに充足させ、譲渡実行日までに準備を行う流れになります。
これらの条件が満たされると、正式に事業譲渡と対価の支払いを実行することができます。
前提条件の例としては、事業譲渡の承認が必要な場合にはその承認を受けることや、従業員の承諾を得ること、などがあります。
8.遵守事項
事業譲渡の際は、契約からクロージングが行われるまで譲渡財産を保全するための遵守事項を定めるのが一般的です。
一例として、次のような項目を記載します。
- 譲渡会社は、資産および負債を管理し、善良な管理者の注意をもって業務を執行すること
- 承継債務の債務引き受けについて、書面による承諾を取得すること
9.競業避止義務
競業避止義務とは、特定の事業分野で競合しないことを定める特約です。
例えば、A企業がB企業に焼き肉店の運営事業を譲渡するケースを考えてみてください。
A企業には焼き肉店の経営に関わった取締役や従業員がそのまま残る場合があるなど、経営のノウハウ自体はA企業に残るパターンが多くあります。
このとき、ノウハウを持ったA企業が焼き肉店を近隣に出店して営業を開始すると、B企業と競合することになり、B企業はせっかく譲り受けた事業による収益が当初の予定より低くなってしまうことが容易に想像できます。
こうした競業は不正な競争として商法等の規制を受けるほか、当事者同士では同種の営業を行わないエリアや年数などを定めておく契約が有効になります。
事業譲渡契約においては、競業避止のエリアや年数、および違反した際に賠償を支払う旨などを定めることが一般的です。
10.秘密保持
秘密保持契約(NDA)は、本契約で定めるか、別途秘密保持契約書を作成するパターンが一般的です。
契約書には秘密情報の範囲、第三者には開示しない旨、情報開示が必要な場合の許可要件などを定めます。
11.補償
事業等、契約においては補償・損害賠償の規定を置くことが一般的です。
本項目では、表明保証や遵守事項に定めた義務に違反して損害を与えた場合に、賠償する旨を確認して明記します。
12.契約解除
契約解除とは、一方または双方の当事者が契約上の義務を果たさなかった場合や特定の条件が成立した場合に、事業譲渡契約を行わずに終了させることです。
事業譲渡契約では、次のような場合に契約の解除を行えるよう定めておくケースがあります。
- 一方が契約で定めた義務に違反し、定めた期間内に是正しなかったとき
- 表明保証に誤りがあったとき
- 遵守事項に違反し、会社に重大な損害を与えたとき
- 不可抗力により、予定日に事業譲渡が実行できなかったとき
- 相手方につき破産手続き開始決定や再生手続等の申立てがされたとき
13.租税公課の精算
租税公課の精算とは、企業間で資産などの取引があった際に、税金や公課を適切に分担して支払うことです。
事業譲渡の場合には、取引時点で発生している税金や公課を正確に計算し、買い手と売り手が支払いの分担を行います。
例えば不動産が譲渡財産に含まれる場合、譲渡日以降の固定資産税は、日割りにて買主が負担する等と定めます。具体的な金額はクロージング日を基準に計算しておきます。
新年の1月~3月など、本年の固定資産税がまだわからない期間においては、前年度の金額を基準にするか後日精算にするケースなどあり、こうした部分は当事者の契約内容次第になります。
そのほかに計算すべき項目として自動車税や従業員の保険料などがあります。
14.その他一般条項
その他一般条項としては、次のような項目を加えるケースが一般的です。
- 定めにない事項や解釈違いが発生した事項について、その都度協議で定める旨
- 合意管轄裁判所
事業譲渡契約書で必要となる収入印紙
事業譲渡契約書は印紙税法の第一号文書に該当し、印紙税が課されます。
収入印紙の額
事業譲渡契約書に必要な収入印紙の額は、次のとおりです。
事業譲渡によ支払われる対価の額 | 印紙税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上10万円以下または契約金額の記載がない場合 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1,000円 |
100万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円以上 | 60万円 |
事業譲渡契約書を作成する際のポイントと注意点
事業譲渡契約書を作成する際には、以下の注意点があります。
- 事業譲渡の対象を具体的に明確に記載する
- 従業員の引継ぎについて充分な説明を行う
- 作成を専門家に依頼する、またはアドバイスを受けながら作成する
- 許認可の再取得や、公的機関への手続が必要になる場合がある
以下、各項目について解説していきます。
事業譲渡の対象を具体的に記載する
契約書には事業譲渡の対象を具体的に明確に記載しましょう。
対象となる資産の範囲について、不動産、従業員、債権債務、設備、在庫等、個別に特定できるものは可能な限り明確に記載します。
資産は、別紙を用いて項目ごとに目録を作成するのも一般的な方法です。
従業員の引継ぎについて充分な説明を行う
従業員の引継ぎは、事業承継や企業買収などの際に重要なポイントです。まずは、引継ぎ対象となる従業員のリストを作成し、各従業員の業務内容や担当分野を明確にしましょう。
次に、引継ぎに伴う手続きや注意事項をリスト化して従業員に確認してもらいます。例えば労働条件や雇用契約、社会保険手続きなど、変更がある場合は従業員に説明し、異動の意義や目的を理解してもらうことが大切です。
また、引継ぎに伴い競業避止義務や営業秘密保護などの規定も従業員に周知徹底させるように努めましょう。
引継ぎを円滑に進めるためには、事前に従業員へのアンケート調査や面談を実施するなど、不安や懸念事項を洗い出し、それに対する対策を講じることも重要です。引継ぎがスムーズに進むことで、新しい環境でも従業員が活躍できるようサポートしていきましょう。
作成を専門家に依頼する、またはアドバイスを受けながら作成する
契約書に関する法務や経営のサポートは、専門家に相談するのがおすすめです。事業譲渡等の契約書作成には、専門的な知識や経験が必要なためです。
インターネット上では無料のテンプレートがダウンロードできますが、具体的な事案や事業に関連する特定の条項への対応が難しい場合が多いでしょう。
目的通りの契約書を作成したい場合には、法律知識を持つ専門家のアドバイスを受けながら行うようにしましょう。専門家に依頼することで契約書の品質が向上し、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。
専門家は、弁護士や税理士、司法書士などが挙げられますが、それぞれの専門分野によってアドバイス内容が異なるため、適切な専門家を選ぶことが重要です。
おおまかに、企業法務に関する各専門家の分野は以下のとおりです。
- 弁護士:オールマイティ。契約書の作成、チェックや立会など。
- 司法書士:スキームのチェック、クロージングの立会やその後の登記手続き
- 税理士:税務関連の相談、節税対策
- 行政書士:許認可の再取得手続きなど
- 社会保険労務士:新たな就業規則の作成や労働環境のチェック
最後に、事業譲渡が完了した後も定期的に取引先とのコミュニケーションを続けることが大切です。円滑な事業運営が継続できることで、前向きな経営を展開できるでしょう。
許認可の再取得や、公的機関への手続が必要になる場合がある
不動産事業者や飲食業、運送業など、事業の種類によっては、自治体の許認可を再度取得する必要があるケースがあります。
また、許認可を得る前提として当該事業を会社の『目的』に加えるために譲受会社において定款変更決議と登記申請が必要になるケースもあります。
さらに、大規模な会社においては、公正取引委員会への届出や内閣総理大臣への臨時報告書の提出などが求められる場合もあります。
事業譲渡においては、このように契約外の部分の公的な手続きが必要になるケースがあるため、注意しましょう。
専門家の活用とサポートのすすめ
弁護士や司法書士等の企業法専門家の活用とサポートは、事業譲渡契約書作成において非常に大きなメリットがあります。専門家に相談することで契約書の作成がスムーズに進み、トラブルを回避しやすくなります。
また契約書だけでなく、税務やクロージングまでの手続きのほか、クロージング後の法務手続き、事業譲渡に関する全体的な戦略の策定もサポート可能です。
法律家の視点で見ると、事業譲渡よりも株式譲渡や会社合併等の手法が適したスキームとなる場合もあり、こうした俯瞰の視点から経営に関するアドバイスやサービスを提供できることも大きなメリットと言えます。
デメリットとしては一定の費用がかかることですが、手続きがスムーズになることや精神的な安心感、将来の損害賠償のリスク軽減等を考慮するとメリットの方が充分に大きいと言えるでしょう。
事業承継をお考えの際はぜひ専門家に相談し、理想の着地点への到達を実現しましょう。
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