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事業承継の契約書はどう作る?事業承継の方法や契約書の基本的なポイントについて解説

事業承継・相続対策

2024.11.172024.11.21 更新

事業承継は多くの個人事業主や中小企業にとって避けて通れない重要な課題です。事業承継に関する課題や悩みはさまざまで、解決のために取るべき手段や契約も多くの方法があります。そこでこの記事では、事業承継に関する契約書作成時のポイントについて詳しく解説します。

この記事を読むことで、事業承継のさまざまなパターンや作成すべき契約書の例がわかります。事業承継の際の注意点を理解し、より円滑な事業承継の実現に向けて参考にしてみてください。

事業承継は、その方法を選ぶところから専門家の関与が望ましいです。適した専門士業のアドバイスを受けることでより具体的な手続きがわかるようになり、自社の状況に合わせた最適な契約書の作成につながります。

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事業承継とは

事業承継とは、企業や伝統工芸などを継続させるために、主に高齢化によって事業を引退する者について後継者を探して事業を承継させることを言います。

中小企業庁のホームページでは「企業の熱い想いや技術を次の世代へつなぐこと」と紹介されています。

事業承継の方法はさまざまで、個別の状況や希望に応じた契約や行政手続きなどが必要になります。事業内容によっては、後継者において許認可や資格を得る手続きも必要になるケースもあります。

次に、事業承継のパターンをわけて解説していきます。

個人事業主か法人か

個人事業主が、個人または会社を譲受人として事業を承継させる際は、事業譲渡の方法が考えられます。開業届を提出している場合には、廃業届および承継者による開業の手続きを行ったり、屋号・商号を登録している場合にはその引継ぎの手続きが必要になります。

法人化して会社を所有している場合には、会社の株式を譲渡し株主名簿を書き換えることによって会社所有者を変更する方法などがあります。  

後継者が誰か

後継者が配偶者や子供の場合に事業承継を行うには、承継対象が会社であればやはり株式を譲渡する方法が考えられます。譲渡の方法としては、売買、生前贈与、または遺言、信託などの方法もあります。

後継者として従業員や、同種事業を行う他の株式会社などの第三者に事業を任せるような場合には、やはり株式を譲渡するか会社合併する方法などがあります。会社分割を行ったり、事業の一部譲渡を組み合わせたりする方法もあります。

どのような方法で手続きするか

 事業承継は、どのような手続きを行うかで必要な契約と作成すべき契約書が変わります。

 例えば次のようなケースが考えられます。

  • 相続
  • 事業譲渡
  • 株式譲渡
  • 会社分割
  • 会社合併
  • 株式交換
  • 株式移転
  • 信託

以下、それぞれの方法における事例や、どのような契約が必要になるのかを紹介していきます。

方法によって手続きや税金も違うため、適した事業承継方法の選択には専門家への相談が必要になるでしょう。

相続

事業主が亡くなってしまった場合、事業をどのように承継するかが問題になります。まず事業主が生前に会社を行っているケースでは、会社の株式の承継がポイントです。

相続人が複数いる場合、原則として株式は共有状態になります。このとき、原則は一株一株が共有になるのであって、相続分の割合に応じた株式数を各別に取得するわけではない点に注意が必要です。

例えば、100株を被相続人の妻と子2人で相続した場合、妻50株、子25株ずつではなく、100株全てが相続割合に応じた共有状態となります。

この遺産共有状態を解消するには、遺産分割によって株式の所有者を定める必要があります。遺産分割協議は互いの相続人全員の合意によって権利義務を明確にするものであり、民法上は契約の性質があります。

また、事業主はこのような状態を避けるために遺言によって株式の遺贈を行ったり、信託などの方法を取ることも考えられます。

次に、開業届を出して個人事業を行っていた場合には、廃業届や後継者による開業届などの手続きが必要になります。個人資産は個別に相続の対象であるため、事業に利用していた機器などは個別に後継者へ所有権を移転させる手続きが必要です。

相続した財産を親族ではない従業員等に承継させるには、売買や贈与等の契約が必要になるでしょう。

事業譲渡

事業譲渡とは、その名の通り事業そのものを売却するなどして譲受人に承継させる手続きです。

取引先との契約関係や従業員との雇用契約、法的な債権債務関係や、事業についての備品、資産などを全てまたは個別に選択して引き継ぐのが事業譲渡の特徴です。

取引先や従業員の目線としては、契約先が変わることになるため、その承継を認めるかどうか個別の承認が必要になります。

例えば不動産事業と飲食業を行っている会社の代表が高齢化によって事業承継したいと考える場合、不動産事業をメインとして長男に会社そのものを承継させ、飲食事業部門については次男に事業譲渡する、などの組み合わせが考えられます。

事業譲渡は事業や資産を個別に承継させる手続きであり、一部のみの譲渡も可能というメリットがあります。しかし引き継ぐ内容によって個別の承認が多く必要になるため、それに伴って契約書を作ったり承認を得る手間が多くなるデメリットがあります。

事業譲渡は個人事業主、会社のどちらでも利用でき、後継者となる相手方も個人か法人かを問いません。

株式譲渡

株式譲渡とは、会社の株式を譲渡することにより会社の所有者そのものを変更する手続きです。

株主には会社の役員選任権や配当を得る権利があるため、全ての株式を譲渡すると会社の経営権や配当の権利、残余財産を得る権利など全て手放すことになります。

配偶者や子、孫に会社を承継させる場合、生前から株式を少しずつ贈与することで会社を承継させるスキームなども利用されます。

株式譲渡の際は、主に株式譲渡契約書が必要になります。また、会社によって譲渡承認の手続きや譲渡承認書が必要になります。

吸収合併

会社を他の会社に全て承継させたい場合、会社法上の手続である吸収合併を利用する方法があります。

吸収合併すると、文字通り会社の資産・負債や契約関係を承継会社に承継させて、吸収された会社は消滅します。消滅する会社の元株主は、契約の内容に応じて金銭などの合併対価を得ます。

事業譲渡との違いは、会社の権利関係を一括で承継させることができ、個別の承認が不要である点が挙げられます。手続きには登記が必要になり、また吸収された会社は消滅する点も事業譲渡と違います。

株式譲渡との違いは、株式譲渡は会社の商号や資産など全てそのままで会社のオーナーシップのみを変える手続きであるのに対し、会社合併では吸収された会社が消滅します。

会社合併や会社分割の方法は、会社法上の手続きであり個人事業主は利用できません。吸収合併を行う際は、合併契約書が必要になります。

会社分割

会社分割とは、会社の一部を他の会社に承継させる手続きです。合併と違って会社分割を行った会社は消滅せず残ることになります。

事業譲渡との違いは、やはり契約で定めた範囲の権利義務や資産を一括で移転させることができる点や、登記が必要になる点、個人事業主は利用できない点などが挙げられます。

事例としては、不動産事業と飲食店の事業を行っている会社がそれぞれの事業を別で承継させたい場合などに利用することが考えられます。会社分割によって不動産部門を他の不動産会社に分割して、その後に残った飲食店の部分を他の飲食店に吸収合併するなど、組み合わせて利用することもできます。

会社分割をする際は、相手方の会社と会社分割契約書を作成します。

株式交換

株式交換とは、会社の株式を他の会社に承継させてオーナーシップを手放し、その子会社となる組織再編の手続きです。原則として、元株主はその親会社の株式を対価として得るため株式交換と呼ばれます。

株式交換によって事業承継する際は、親会社となる会社と株式交換契約を締結し、株式交換契約書を作成する必要があります。

株式移転

株式移転とは、新規に会社を設立して既存会社の株式をその会社に承継させ、子会社となる手続きです。

会社の経営権は親会社が持つことになり、既存会社の元株主はその親会社の株式や金銭対価などを取得して会社を手放すことになります。

株式移転においては株式移転契約書や株式移転計画書を作成します。

信託契約によって事業承継する場合

信託とは、目的や受益者を定めて資産の運用を託す契約を言います。

例えば会社の株式を信託銀行等に信託し、経営者が生存中は自己を受託者としてその運用による収益を受け、死亡後は後継者を受託者として受益させるスキームなどがあります。

また経営者の死亡と同時に信託契約を終了させて株式を後継者に交付するなど、帰属先を設定することも可能です。

信託を利用する際は、信託契約書や目録を作成します。

事業承継契約書とは

『事業承継』は実は法律で定義される用語ではなく、その際の契約書についても『事業承継契約書』と呼ばれることはあまりありません。

株式譲渡契約や事業譲渡契約など、どのような法的手続きで事業承継を行うかによって、その契約書のタイトルとするのが一般的です。

なお、どの方法を利用する場合でも、契約書には承継対象となる事業や資産の範囲、譲渡金額、支払条件、従業員の処遇、債務の引継ぎなどの重要事項を詳細に記載する必要があります。

事業承継において契約書を作成する重要性

事業承継において契約書を作成することは、円滑な事業の引き継ぎを実現するために非常に重要です。

この契約書は、現経営者と後継者の間で交わされる法的文書であり、事業承継の具体的な内容や条件を明確に定めます。これにより双方の権利と義務が明確になり、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。

契約書は、遺言で承継先を定めるようなケースでなければ、基本的に必須となります。また会社合併等の会社法による組織再編を利用する場合には、会社法によって契約書や計画書の作成が義務付けられ、記載事項も定められています。

事業承継の契約書でポイントとなる項目

事業承継の際の契約書には、承継の円滑な実施と将来のトラブル防止のため、契約の種類やスキームによって重要な項目を盛り込む必要があります。

共通して記載すべき事項は次のようなものがあります。

  • 事業承継の目的
  • 事業承継の対象や対価を明確にする
  • 従業員の引継ぎ、処遇
  • 表明保証
  • 競業避止義務
  • その他の一般条項

以下、一つずつ解説していきます。

事業承継の目的

事業承継の目的は、企業の持続的な発展と円滑な世代交代を実現することにあります。この目的を達成するためには、現経営者の意思と後継者の意向を明確に定義し、双方が合意した形で事業を引き継ぐことが重要です。

具体的には、ブランド名をそのまま使用したり、品物の製造工程や材料を変えないことによる技術の伝承などが主な目的として挙げられます。

さらに企業の存続だけでなく、地域経済への貢献や社会的責任の継続も目的の一つになります。特に中小企業においては、地域社会との密接な関係を維持しながら、事業を次世代に引き継ぐことが求められます。

事業承継契約書には、こうした目的を明確に記載し、現経営者と後継者の間で共通認識を持つことが重要です。目的を明確にすることで承継の方向性が定まり、円滑な事業承継の実現につながります。

事業承継の対象や対価を明確にする

事業承継の対象を明確に定義することは、契約書作成において極めて重要です。対象には、有形資産と無形資産の両方が含まれます。

有形資産には、土地、建物、機械設備、在庫などが該当し、これらは比較的容易に特定できます。一方、無形資産には顧客リスト、ブランド、特許、ノウハウなどが含まれ、これらの評価や移転には慎重な検討が必要です。

承継に伴う対価の支払い方法や支払いタイミングを定めることも必要です。

対象の特定が不十分だと、後々のトラブルの原因となる可能性があるため、専門家の助言を得ながら、できる限り詳細かつ明確に記載することが望ましいでしょう。

従業員の引継ぎ、処遇

従業員の引継ぎは事業承継における重要な要素です。

事業内容によっては伝統的なスキルをもった職人もいるため、こうした職人が事業承継に応じてすぐに辞めてしまったり、引き抜きにあうようなトラブルの可能性もあります。

契約書には、承継後の従業員の雇用条件や処遇について明確に記載する必要があります。具体的には、雇用継続の保証、給与や福利厚生の維持、退職金や年金制度の取り扱いなども明記して引き継ぎましょう。また、従業員の引継ぎ期間や方法、引継ぎに関する責任の所在も明確にしておくことも重要です。

従業員の不安を軽減し、円滑な事業承継を実現するためには、従業員とのコミュニケーションや、承継後の組織体制についても契約書に含めることが効果的です。これにより従業員の理解と協力を得やすくなり、事業の継続性を確保することができます。

表明保証

表明保証とは譲渡人が承継対象となる事業や資産に関して、その状態や性質を保証する条項です。

具体的には、財務状況、法令遵守、係争の有無、知的財産権の所有状況などについて、譲渡人が表明し保証することを意味します。

譲受人について条件がある場合は、譲受人も自己の義務や資産等について表明保証を行います。

この条項により、譲受人は承継する事業の実態をより正確に把握することができ、潜在的なリスクを軽減することが可能となります。違反した場合には損害賠償を請求できる根拠となるため、例えば未払いの債務や隠れた法的問題がないことを保証することで、譲受人は安心して事業を引き継ぐことができます。

表明保証の範囲や内容は事業の性質や規模によって異なりますので、双方の利害を適切に調整しながら慎重に検討する必要があります。専門家のアドバイスを受けながら、具体的かつ明確な表現で記載することが望ましいでしょう。

競業避止義務

競業避止義務とは、事業を譲渡した側が一定期間、同じ業界で競合する事業を行うことを制限するものです。これにより事業を承継した側の利益を保護し、円滑な事業の引き継ぎを可能にします。

競業避止義務の設定には、期間、地域、業種の3つの要素を具体的に定める必要があります。期間や地域は事業の影響範囲を考慮して設定します。業種については、承継した事業と直接競合する分野を明確に定義することが重要です。

ただし競業避止義務の範囲が広すぎると、譲渡側の職業選択の自由を不当に制限する可能性があるため、合理的な範囲内で設定することが求められます。また違反した場合の損害賠償についてもあらかじめ契約書に明記しておくことで将来的なトラブルを防ぐことができます。

競業避止義務の設定は、事業の価値を維持しスムーズな承継を実現するための重要な要素です。適切に設定することで双方の利益を守り、事業承継の成功につながります。

その他の一般条項(秘密保持、譲渡期日、合意管轄など)

事業承継の契約書には、主要な条項に加えて秘密保持や譲渡期日(クロージング)、その他の一般条項も記載します。

なお秘密保持契約については、事業承継の基本合意の前の段階で先行して結ぶのが一般的です。その理由は、交渉の段階で対象事業についての一定の情報を相手に公開する必要があるためです。交渉の結果、事業承継の合意に至らなかった場合でも、交渉に際して公開した内部情報は秘密にしてもらう必要があります。

秘密保持条項は、事業承継に関する機密情報の漏洩を防ぐために不可欠です。

その他の一般条項として、譲渡期日と譲渡条件についての明確な設定も重要です。具体的な日付を定めることで事業承継の実行時期が明確になり、双方の準備や計画が立てやすくなります。また、段階的な承継を行う場合は、各段階の期日を明記することも有効です。

合意管轄条項は、万が一紛争が生じた場合の裁判管轄を定めるものです。この条項により訴訟の場所が予め決められ、不必要な争いを避けることができます。通常は被承継者の所在地を管轄する裁判所を指定することが多いですが、双方の合意により決定します。

その他、契約の解除条件や、契約書の変更手続き、反社会的勢力の排除条項なども含めることが一般的です。これらの条項は、契約の安定性と柔軟性を確保し、将来的なリスクを軽減する役割を果たします。

事業承継の契約書で必要となる収入印紙

事業承継は契約の種類に応じた収入印紙が必要になります。

例えば、事業譲渡の場合には契約額に応じて200円から60万円の収入印紙が必要です。会社合併の場合、4万円と定額です。(それぞれ平成30年4月1日現在の法令による。)

電子契約の場合は収入印紙は不要になります。

収入印紙以外にも、承継方法によって法人税や登録免許税、相続税、または行政手続きで必要になる手数料も変わりますので不明な点がある場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

事業承継における契約書を作成する際は専門家のアドバイスを受けるのがおすすめ

事業承継にはさまざまな方法があり、近年では信託を利用したスキームも増えています。

どの方法をとるかによって手続きの煩雑さや課税額も変わります。契約書作成に入る前に事業承継を検討する段階で、まず専門的な知識を持った弁護士や司法書士、税理士などに相談し依頼するのが良いでしょう。

専門家は事業承継の目的や対象、支払条件、譲渡金額などの重要項目について関連する法令に基づいたアドバイスが可能です。また、競業避止義務や秘密保持義務などの特殊な条項についても、適切な範囲や期間を設定する助言が得られます。

法律の専門家からのアドバイスを得ることで法令を遵守した公平で明確な契約が確立でき、将来的な紛争リスクの大幅な軽減と円滑な事業承継につながります。

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