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労働協約と労使協定の違いとは?就業規則との関係もわかりやすく解説

労働問題・労働法務

2025.05.112025.05.20 更新

企業の労務管理において、労働協約と労使協定は重要な役割を果たしていますが、その違いを正確に理解している方は意外と少ないものです。

これらの違いを理解することは、人事担当者だけでなく、一般の従業員にとっても自身の労働条件を把握する上で非常に重要といえるでしょう。

本記事では、両者の定義と、就業規則・雇用契約との基本的な違いなどをわかりやすく解説します。

それぞれの優先順位や利用される場面、必要な手続きについても解説しますので、ぜひ最後までお読みいただき参考にしてみてください。

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労働協約とは?その概要と特徴

労働協約とは労働法上の用語で、労働組合と使用者が行った取り決め(契約)のことです。

労働組合とは、労働組合法に基づいて成立する労働者の団体です。一般的にはひとつの社内の労働者によって組織される労働組合か、会社外部でのユニオン(合同労働組合)に分かれます。

使用者とは主に企業のことです。株式会社だけでなく学校法人や医療法人等の人を使用する団体・法人がこれに含まれます。『使用』とは、『雇用』とほぼ一緒の意味となります。

労働協約の主な内容には、賃金、労働時間、休日・休暇、福利厚生、人事・配置などの労働条件に関する事項が含まれます。また、表彰や懲戒、労使協議制度についても定められることが多いでしょう。

なお使用者側が定める『就業規則』は、労働協約で定めた範囲において定めることになります。

労働協約の効力は、原則として労働組合の組合員に及びます・有効期間は当事者間の合意により決まりますが、通常は1〜3年程度に設定されることが多く、期間満了後も自動更新される場合があります。

労働協約は労使の自主的な交渉によって成立するため、労働条件の維持・向上と企業の発展という双方の利益のバランスを図る重要な役割を担っています。

労使協定とは?その目的と特徴

労使協定とは、使用者と労働者代表の間で取り交わす書面契約のことです。

引用:厚生労働省 奈良労働局監督課 『労使協定とは』
代表者とは、労働者の過半数を代表する者です。

原則として就業規則は労働協約に反しない範囲で作成されますが、これに対し特則を作りたい場合に労使協定を結んで規則を修正することになります。

労使協定により、労働基準法などの法律で定められた労働条件の最低基準を下回る、または法律の適用除外を認める特別な取り決めを可能にすることにあります。

また労使協定の特徴として、特定の事項についてのみ締結できる点が挙げられます。締結のためには、労使協定書を書面で作成し、使用者と労働者代表者の署名または記名押印が必要になります。

さらに、労働局基準監督署への届け出が必要なものもあります。

例えば、36協定(時間外・休日労働に関する協定)や変形労働時間制に関する協定などが代表的です。

労働協約と労使協定の違いをポイントで比較

労働協約と労使協定は、労働条件を定める重要な取り決めですが、その性質には明確な違いがあります。両者の主な違いは以下のとおりです。

労働協約労使協定
根拠法令労働基準法、労働組合法など労働基準法14条、36条(三六協定)など
目的労働条件や労使関係を明確にする個別の労働条件に関する取り決め
就業規則との関係原則として、法令および労働協約の範囲内で就業規則を設ける。優先度としては法令>労働協約>就業規則となる。法令の範囲外の業務(時間外労働など)を可能とするために、特則として労使協定を設ける。
成立要件書面で作成し、両当事者が署名または記名押印書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出(ただし内容による)
締結の当事者使用者(またはその団体)と労働組合使用者(またはその団体)と労働者代表者
適用範囲労働組合員事業場ごとの全労働者
有効期間最長3年(更新あり)協定の定めによる(三六協定は1年ごと要更新)

まず当事者の違いとして、労働協約は労働組合と使用者間で締結されるのに対し、労使協定は過半数代表者と使用者間で結ばれます。

効力の面では、労働協約には強い規範的効力があり、就業規則よりも優先されることが多いのに対し、労使協定はその例外を認めるための協定となります。特定事項については行政官庁への届出要件を満たす必要がある場合があります。。

また適用範囲においては、労働協約は組合員に適用されるのが原則ですが、労使協定は事業場の全労働者に適用されます。

最後に有効期間について、労働協約は3年以内と法定されていますが、労使協定には明確な期限の定めがないケースも見られます。

これらの違いを理解することで、それぞれの特性を活かした適切な運用が可能になります。

法的効力と適用範囲の違い

労働協約と労使協定は、法的効力と適用範囲において明確な違いがあります。

労働協約は労働組合と使用者間で締結される契約的性質を持ちます。そのため適用対象は労働組合に加入する組合員です。

例えばA事業所とB事業所に組合員がそれぞれいた場合、労働協約が適用されるのは事業所に関わらず組合員です。

これに対し、労使協定は事業所ごとに締結が可能です。A事業所で策定された労使協定はA事業所に属する労働組合員も含めた全従業員が適用対象であり、B事業所の従業員には適用されません。B事業所では、B事業所における労使協定を別途作成することが可能です。

このように、両者は似て非なるものであり、その法的位置づけと効力範囲の違いを理解することが実務上不可欠です。

労働協約と労使協定、どちらを優先すべきか?優先順位の整理

労働協約と労使協定が同じ事項について異なる定めをしている場合、どちらを優先すべきか悩むことがあります。

まず原則として、法令(労働基準法その他の法令)が最優先されます。次いで労働協約、就業規則、最後に個別の労働契約の順です。

例えば、個別の労働契約が就業規則に違反していた場合、違反する部分は無効になります。就業規則が労働協約や法令に違反する場合には、その違反部分が無効になります。

そこで、例外的なルールを設けるのが労使協定です。

例えば残業や休日出勤等の定めを行う三六協定など特定の労使協定については、法律で明確に規定されているため、その効力は保障されています。

しかし、この三六協定であってもあくまで残業等を可能にする規定であり、使用者が命令できるようになるわけではありません。さらに、これらのルールも労働基準法を無制限に無視して定められるわけではありません。

労使間でのトラブルを避けるためにも、協約と協定の関係性を明確にしておくことをお勧めします。

労働協約・労使協定違反の罰則とそのリスクを避けるための対策

労働法は、主に労働者の権利を守るための法律です。

事業者がこれに反した労働協約を行ったり、行政庁への届け出を怠るなどした場合、各種行政罰が課される可能性があります。

以下ではこうした罰則を避けるための注意点を解説します。

一部の労使協定は労働基準監督署への届け出が必要

三六協定などの一部の労使協定は、労働基準監督署への届け出が必要になります。
この届出を欠くと書面協定であっても無効になり、労働基準法違反が発覚した場合には事業者は処罰の対象になります。

労使協定は従業員への周知が必要

また、労使協定を締結した場合にはすべての従業員に対してその内容を周知しなければなりません。

法第106条第1項 の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は第二十四条の二の四第三項第三号に規定する電磁的記録媒体をもつて調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

引用:労働基準法施行規則52条の2

これらに反して従業員への周知を怠った場合、事業所は処罰の対象になります。

協定・規則・契約書では曖昧な表現を避け、専門家のチェックを受ける

労働協約、労使協定、就業規則、雇用契約書等の作成および保守の対応等には、専門家のチェックを受けることが有効です。

各書類は多くの従業員との関係を規定し、長期的に有効となるものです。そのため、少しの曖昧な表現があとあと大きなリスクとなるケースも考えられます。

このように企業への影響が大きい契約書等については、専門家を介したチェックと法令に即した運用が求められます。

労働法関連の専門家としては、社会保険労務士や弁護士がこれに当たります。

弁護士は、各専門分野に特化した事務所に依頼するのが望ましいでしょう。企業法務・労務関係に詳しい事務所へ依頼することで、書類のリーガルチェックのほか、法令違反が無いような周知義務のチェック等も相談できる場合があります。

就業規則との関係性:労働協約と就業規則の違いと優先順位

労働協約と就業規則では、労働協約が優先されます。

優先される順番は、法令>労働協約>就業規則>個別の労働契約です。

例えば労働協約に違反する就業規則を定めた場合、違反する部分において就業規則が無効になります。また個別契約においては原則として就業規則に違反する部分が無効になります。

これに対し、各規則に特別ルールを設けて適用範囲を広げるのが労使協定という位置づけになります。労使協定においても、法令違反の取り決めはできません。

罰則内容

労働基準法では、行政罰と刑事罰が定められています。

行政罰とは、許可の取り消しや就業規則の修正命令などの行政からの指導のことです。刑事罰とは懲役や罰金などのことです。

例えば、労働基準法第五条では次のとおりさだめられています。

第5条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

このような法令に違反した場合、労働協約や労使協定の有無にかかわらず、各種罰則を受ける場合があります。第5条に違反した使用者は、1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処されます。

労働協約・就業規則については、例えば92条に次のとおり定めがあります。

第92条 
就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
2 行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。

そして、92条2項に違反して就業規則の変更命令に従わなかった場合、30万円以下の罰金に処される可能性があります。

実務上、労働協約違反が刑事罰に発展するケースはそれほど多くありませんが、労使関係の悪化や民事上の損害賠償請求に発展する可能性は常にあります。労働協約の内容を十分理解し、誠実に履行することが、罰則を避けるための最も確実な方法と言えるでしょう。

また違反リスクを軽減するためには、労使コミュニケーションを日常的に行い、問題が大きくなる前に対話の機会を設けることが何より効果的といえるでしょう。

労働協約・労使協定の締結方法とひな形

労働協約を作成する際には、まず労使双方の合意形成が基本となります。具体的な手順としては、労働組合側と使用者側の代表者による協議を経て、合意内容を書面化します。この際、有効期間や適用範囲を明確に記載することが重要です。

労働協約は労働基準監督署長へ届け出る義務はありません。これに対し、労使協定を締結した場合には一定の条件のもと労働基準監督署への届け出が必要になります。

届出の際には、労働協約の原本または写しに加え、当事者双方の署名または記名押印が必要となります。特に注意すべきは、協約内容が法令に違反していないかの確認で、違反している場合は行政指導の対象となることもあります。また、協約締結後の運用面では、組合員への周知方法についても事前に検討しておくと良いでしょう。

労働協約のひな形

労働協約の書式例は、有斐閣のHPで公開されています。

引用:労働協約例

上記書式例の主な構成は次のとおりです。

  • 第一章 総則 (団体や優先性を規定)
  • 第二章 組合活動 (組合への加入や組合費など)
  • 第三章 労使協議会 (使用者と組合員との協議について)
  • 第四章 団体交渉・争議行為 (交渉・ストライキ)
  • 第五章 人事 (採用、配転、休職復職など)
  • 第六章 労働時間、賃金、安全衛生、福利厚生、災害補償等 

本協約においては労使間のルールの大枠を定めるイメージになります。

さらなる詳細は就業規則で規定し、賃金等の個別の条件については労働契約で定めることになります。

労使協定のひな形

各種労使協定等の参考書式は、厚生労働省のHPからダウンロードできます。

引用:厚生労働省 神奈川労働局 労働基準法関係書式

労使協定(三六協定)の届出義務とその流れ

労使協定を締結した場合、行政官庁(労働基準監督署)への届出が必要です。三六協定の場合、原則として協定の開始前に届出を行わなければなりません。

このとき、協定の起算日を指定して届け出ることになります。有効期間は起算日から1年間とするのが一般的です。協定の期間が終了したあとも引き続き時間外労働や休日出勤を行うことに合意した場合は、有効期間が終了する前に再度協定の届けを労働基準監督署に提出する必要があります。

労使協定の運用上の注意点

労使協定の締結には、まず適切な労働者代表の選出が必要です。

パートやアルバイトを含む労働者を代表する者と、使用者との間で協定を結びます。作成時には協定の目的、適用範囲、有効期間を明確に記載し、双方の署名・押印を忘れないようにしましょう。

三六協定など、一定の労使協定については労働基準監督署への届け出が必要です。また三六協定は1年ごとの更新が必要で、期限切れに注意が必要です。

また労使協定の内容は従業員への周知が義務付けられており、掲示板への掲示やイントラネットでの公開などが一般的です。

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株式会社WEBYの法務急済運営事務局。全国400以上の弁護士・司法書士のWEBマーケティング支援に従事。これまでに法律ジャンルの記事執筆・編集を1000記事以上担当。WEBコンサルやHP制作、SEO対策、LMC(ローカルマップコントロール)など様々な支援を通じて法律業界に精通。これらの経験を基に企業法務の際に必要な情報や適切な弁護士・司法書士を紹介している。

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