民事訴訟法とは?その定義と役割
訴訟・紛争解決
2025.02.01 ー 2025.02.02 更新

民事訴訟法は、民事上の紛争を解決するための手続きを定めた法律の一つです。日常生活や取引において生じる様々な争いを、訴訟手続きによって公平かつ適正に解決することを目的としています。
具体的には、訴えの提起から判決に至るまでの裁判の進め方や、証拠の取り扱い、上訴の方法などを規定します。
この法律の役割は、当事者の権利を保護しつつ、効率的な紛争解決を実現することにあります。そのため、裁判の公開性や当事者主義といった基本原則を定めるとともに、手続きの細部にわたるルールを設けています。
民事訴訟法は、手続法です。そのため権利の内容そのものではなく、その権利を実現するための手続きを規定しているのが特徴です。
近年では、IT化の進展に伴いオンライン化への対応も進んでいます。
民事訴訟法の目的とは?

民事訴訟法の目的は、私人の間における民事上紛争を公正かつ迅速に解決することにあります。ここでいう私人とは、個人、法人を問いません。
事例として、貸したお金を返してくれない相手がいた場合、相手の家に乗り込んだりキャッシュカードを奪って無理やり回収したりすることは治安の崩壊を招くため許されません。これを自力救済の禁止と言います。
このような場合には請求書等によって直接請求するか、調停、仲裁合意などによって解決を目指す方法もありますが、訴訟や支払督促等の裁判所を経由する手続き方法を定めたのが民事訴訟法です。
金銭の請求について訴訟で解決するには、まず口座に仮差押えを行い(民事保全)、次いで訴訟を行い(民事訴訟)、勝訴すれば強制執行(民事執行)によって回収する流れになります。
このように民事訴訟法は、民事保全法、民事執行法と密接な繋がりがあります。
民事訴訟、刑事訴訟、行政訴訟の違い
訴訟には、民事訴訟のほかに刑事訴訟と行政訴訟があります。
刑事訴訟は、被告人が刑法その他の法令で定められる罰則に該当するかどうかを判断する訴訟手続です。
例えば殴られてケガをした場合、暴行や傷害罪にあたるかどうかを判断するのが刑事訴訟であり、治療費の請求などを行うのは民事事件として民事訴訟等で行います。
刑事責任と民事責任は別物です。
行政訴訟は、国その他の公の自治体、行政庁等に対して行政事件の違法性を争う裁判手続です。例えば選挙の有効性を確認する訴訟や、営業許可を得られないことに対する不服申し立てなどがこれにあたります。
なお国や市町村などの自治体が相手の場合でも、例えば『市から業務委託を受けたが委託料の支払いがされないため請求したい』といった争いは、行政訴訟ではなく民事での争いにあたります。
民事訴訟と企業法務

企業間のトラブルや企業と個人とのトラブルは、刑事事件となるものでなければ全て民事事件と言えます。
例えば、以下のようなケースは基本的に民事での解決を目指すことになります。
- 納品や欠品等による損害賠償請求
- 売掛金の未払い
- 特許、商標など知的財産権侵害についての損害賠償請求や使用差止の請求
- 労働、雇用関係における残業代不払い訴訟や損害賠償請求
- 特定商取引法の消費者とのトラブル
なお民事事件と刑事事件は別物ですが、ひとつのトラブルが民事・刑事双方に当てはまることは少なくありません。
例えば会社の商品についてクレーマーから名誉毀損や信用棄損をされて不当に不買運動が起こった場合には、損害について民事事件として損害賠償を行い、刑事事件としては名誉毀損等で被害届を提出するなどの対応を行うことになります。
セクハラやパワハラ被害においては、強制わいせつや暴行罪が成立する可能性があるほか、通院が必要になった際には民事として治療費の請求等が必要になります。
こうしたトラブルの際は、企業問題に強い弁護士へ相談して対応する必要があるでしょう。
民法との違いと関係性
民事訴訟法と民法は、私人間の権利義務関係を扱う法律として密接に関連していますが、その役割は大きく異なります。
民法が実体法として権利義務の内容を定めるのに対し、民事訴訟法は手続法として裁判による紛争解決の方法を規定します。
民事訴訟法の適用範囲は民法に限定されません。商法や知的財産法、労働法など、他の私法分野の紛争解決にも適用されます。このように、民事訴訟法は民法を含む私法全般の権利実現を支える重要な役割を果たしています。
民事訴訟法が規定する範囲
民事訴訟は、その名のとおり民事訴訟の手続の進行等を定めた法律です。
一般的に「裁判」と「訴訟」は同一の用語で語られることがありますが、法的には全く別の概念です。「裁判」とは、原則として裁判所における手続全般を指します。民事調停や裁判所による仲裁合意、あるいは家事事件なども「裁判」です。
訴訟は、訴えを提起して最終的には判決による解決を目指すという『裁判手続の一種』とお考えください。裁判所における手続きのうち、主に訴訟の方法を定めたものが民事訴訟法というわけです。
民事訴訟法では、総則として管轄や当事者の選定方法、共同訴訟、訴訟費用手続き期日等を定めます。
また、取下げや訴状の却下、棄却等による、判決以外の終了についてや、証拠の提出方法、口頭弁論の手続き、弁論準備手続きなど、訴訟を円滑に進行するための全体の流れも規定します。
通常訴訟以外にも、手形小切手に関する訴訟、少額訴訟、支払督促など、簡易的な債権回収のための裁判手続も定められています。
民事訴訟の基本原則

民事訴訟の基本原則は、公正かつ効率的な裁判を実現するための重要な指針です。これらの原則は、当事者の権利を保護しつつ、裁判所が適切に判断を下すための枠組みを提供します。
以下では民事訴訟の基本原則や、当事者、裁判官の役割などを解説していきます。
裁判の公平性を支える3つの基本原則
民事訴訟法における裁判の公平性は、以下の3つの基本原則によって支えられています。
- 当事者主義
- 処分権主義
- 弁論主義
当事者主義では、訴訟の主導権を当事者に委ね、裁判所は中立的な立場で判断を下す主義を言います。処分権主義は、訴訟の開始や終了、請求の範囲を当事者の意思に委ねる原則です。弁論主義とは、事実の主張や証拠の提出を当事者の責任とする原則です。
これらの原則により、裁判所は公平な立場を保ちつつ、当事者の主張を十分に聞き、適切な判断を下すことが可能となります。
ただしこれらの原則の適用には一定の例外もあり、裁判所が職権で調査や証拠収集を行う場合もあります。3つの基本原則は、民事訴訟における公平性と正義の実現を目指す上で、重要な指針となっています。
訴訟手続きの公開性が重要な理由
民事訴訟は原則として公開で行われます。裁判の透明性を確保し、公正な審理を実現するためには、法廷を広く一般に開放することが不可欠だからです。憲法82条1項では「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う」と定められています。
公開の原則により、誰もが傍聴することができ、裁判の過程を監視する機会が与えられます。これは司法への信頼を高める効果があります。
また、公開性は当事者の権利保護にも寄与します。非公開の手続きでは、不当な扱いを受けても外部からの指摘が難しくなります。公開により、当事者の主張や証拠が適切に扱われているか、第三者の目で確認できるのです。
ただしプライバシーに関わる事案など、例外的に非公開とされるケースもあります。例えば家事事件は原則として非公開です。裁判所は公開原則と個人の権利保護のバランスを慎重に判断しなければなりません。
民事訴訟の手続きの流れを詳しく解説

民事訴訟の手続は、訴えの提起から始まり、判決の確定まで段階的に進行します。
ただし訴訟の前段階として、権利の実現のために仮差押えや仮処分という民事保全手続が必要になる場合があります。
例えば、保全を行わずに金銭の支払い訴訟に勝訴した場合、相手の口座や現金のありかが全くわからなければ強制執行しようとしても空振りに終わります。訴訟中に財産隠し等をされては意味がありません。
このような事態を避けるには、訴訟開始前に債務者の口座等の財産を調査し、仮差押えを行う必要があります。こうした民事保全手続を経て、本訴訟で無事に勝訴すれば、強制執行を行う流れとなります。
訴えの提起から裁判開始まで
民事訴訟は、訴えの提起から始まります。
原告または代理人弁護士等が裁判所に訴状を提出することで、裁判手続きが開始されます。訴状には、当事者の氏名や住所、請求の趣旨と原因などを記載する必要があります。
裁判所は訴状を受理すると、被告に対して訴状の副本を送達します。これにより、被告は訴訟の内容を知ることができます。
被告は、訴状の送達を受けてから一定期間内に答弁書を提出することが求められます。答弁書では、原告の主張に対する認否や反論を記載します。この段階で、当事者双方の主張が明確になり、争点が浮かび上がってきます。
訴状を無視すると、反対の意思を示さないということになるため、裁判で不利になることがあります。
裁判所は、訴状と答弁書の内容を踏まえて、第一回口頭弁論期日を指定します。この期日では、当事者が出頭し、裁判官の面前で主張を行います。ただし、実際の運用では、この段階で詳細な主張を行うことは少なく、書面による準備手続きに移行することが一般的です。
訴えの提起から裁判開始までの流れは、当事者の権利を保護しつつ、効率的な審理を行うための重要なステップとなっています。この過程で、当事者は自らの主張を整理し、証拠を収集する機会を得ることができます。
口頭弁論・証拠調べの手順
民事訴訟における口頭弁論は、当事者が主張や証拠を提出し裁判所が事実関係を明らかにする重要な段階です。まず、原告と被告が交互に主張を行い争点を明確にします。この過程で双方が証拠を提出し、相手方の主張に反論する機会が与えられます。
証拠調べでは、提出された証拠の信用性や証明力を評価します。書証の取り調べ、証人尋問、当事者尋問などが行われ裁判所は事実認定に必要な情報を収集します。特に証人尋問では、主尋問、反対尋問、再主尋問の順で進行し、証言の信頼性を吟味します。
裁判官は当事者の主張や証拠を総合的に検討し、心証を形成していきます。この過程で、裁判官が当事者に対して釈明を求めることもあります。ただし、職権証拠調べの範囲については議論の余地があります。
口頭弁論と証拠調べを通じて、裁判所は事案の全体像を把握し、公平かつ適正な判断を下すための基礎を築きます。この手順は、当事者の攻撃防御の機会を保障し、真実の発見と適正な裁判の実現に寄与しています。
判決とその後の対応
第一審で判決が出されると、判決を受け入れるか、上訴して上級裁判所で争うかの選択が必要です。
第一審から高等裁判所へ上訴することを「控訴」と言います。高等裁判所の判決にも不服の場合には、最高裁判所への「上告」を行います。控訴は、判決書(調書判決の場合には、調書)の送達を受けてから2週間の不変期間内に行う必要があります。
つまり判決が出された瞬間に即時確定するのではなく、上訴なく不変期間を経過することよって判決が確定します。「判決」と「確定判決」の違いを明確にすると理解が深まるでしょう。
このように日本では原則として第一審、控訴審、上告審(法律審)の三審制がとられています。
判決が確定すると、当事者は判決内容に従う義務を負い蒸し返しは原則として許されないことになります。ただし、法律に従った訴訟手続が行われなかった場合や、裁判官が賄賂等によって職務に関する罪を犯し判決を下していたような重要なケースでは、判決の再審の申立てを行うこともできます。再審は、三審制の例外と言えます。
なお法的には、判決が出された後、確定前であれば当事者間で和解する余地はまだあります。裁判上の和解が成立すれば、判決内容に代わって和解内容が効力を持ちます。
判決が確定すると、勝訴した側は、権利実現のための強制執行を裁判所に求めることができます。強制執行については、民事訴訟法ではなく民事執行法に規定があります。
訴訟は原則として本人ができる建付けにはなっておりますが、民事保全の必要性や実行の判断などは専門家でなければ難しい部分があります。特に、複雑な事案や高額な請求を含む場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
民事訴訟法の大枠

民事訴訟法は以下のように構成されます。
- 第一遍 総則
- 第二編 第一審の訴訟手続き
- 第三編 上訴
- 第四編 再審
- 第五編 手形訴訟及び小切手訴訟に関する特則
- 第六編 少額訴訟に関する特則
- 第七編 督促手続・第八編 執行停止
総則は、訴訟手続きの基本原則や裁判所の権限、当事者の適格性など、法律全体の基礎となる重要な規定を定めています。
第二編は通常の訴訟手続きの進行について定めており、第三編では通常訴訟後の上訴についてのルールを定めます。
判決確定後は、原則として事件の蒸し返しは許されませんが、適法な手続きで訴訟が行われなかった場合や、裁判官の不正によって判決が出された場合など一定の場合に再審の手続きが認められます。
第五編から第七編では、通常訴訟でなく簡易的な訴訟手続きについて定めます。例えば手形や小切手については、手形・小切手の存在そのものが証拠としての蓋然性が高いため、口頭弁論を必ずしも必要とせず簡易的な裁判手続が用意されています。
少額訴訟
少額訴訟は、比較的小さな金銭トラブルを迅速かつ簡易に解決するための特別な手続きです。通常の訴訟と比べて、手続きが簡素化されており、原則として1回の期日で審理が終了します。
訴訟の対象となる請求額は60万円以下に限定され、証拠の提出も簡略化されています。
少額訴訟を利用するには、まず管轄の簡易裁判所に訴状を提出します。その際、通常の訴訟手続ではなく少額訴訟での審理を希望する旨を明記します。訴状提出後、裁判所から相手方に呼出状が送られ審理日が決定されます。
審理では、双方が主張を行い、証拠を提示します。判決は原則としてその日のうちに言い渡されます。ただし、少額訴訟には一定の制限があり、例えば同一人が年間10回までしか利用できないなどの制約があります。
少額訴訟は弁護士を立てずに自分で手続きを進めることができるため、費用面でも利点があります。しかし複雑な案件には不向きな面もあり、利用には注意が必要です。
支払督促
支払督促は、金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について督促状を送付する手続です。督促状の送付は、債権者の申立てにより裁判所書記官が行います。
債務者は、督促状の送達を受けた日から二週間以内に異議申し立てを行うことで、通常訴訟へ移行させて争うことができます。しかし督促状を無視してしまうと仮執行宣言が付され、強制執行の対象となります。なおこの場合でも、通常訴訟によって本請求について争うことは可能です。
このように、支払い督促は債権者が簡易かつ迅速に債務名義を取得できる制度として知られています。(債務名義とは、強制執行の開始を許可する文書のことです。)
[最新の改正情報]2022年改正のポイントを解説

2022年の民事訴訟法改正のポイントは、オンライン化です。
本改正により、訴状や準備書面などの提出がオンラインで可能になり、弁護士・司法書士が訴訟代理人になる場合にはオンラインでの訴状提出が義務付けられました。
また、オンラインでの訴訟記録の閲覧・謄写が可能になるなど各種手続きのオンライン化が進むこととなりました。
さらに、訴訟の本手続きにおいてもオンライン実施要件が緩和され、口頭弁論、証人尋問、弁論準備手続がオンラインで可能となりました。
これまでにおいても、証人尋問において電話やテレビ電話方式が一部認められていましたが本改正によりオンライン手続きがさらに緩和された形になります。
裁判所への出頭を要しないウェブ会議方式での口頭弁論や争点整理手続きが導入されました。これにより、地理的制約や時間的制約が緩和され、より多くの人々が司法サービスにアクセスしやすくなることが期待されています。
従来の紙ベースの記録管理に比べ、情報の共有や管理が効率化されると考えられています。
しかし、オンライン化に伴うセキュリティリスクの増大や、システムの安定性の確保など、新たな課題も浮上しています。これらの課題にどう対応していくかが、今後の重要な論点となるでしょう。
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2019年司法書士登録 補助者時代から複数の事務所勤務を経て2021年独立。同時にWebライター・記事監修業務を開始。 できるだけ一般的な表現での記事作成を心がけているます。法律関係の諸問題は、自己判断せずに専門家に相談することが解決への近道です。

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