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約款とは?利用規約や契約書との違いと民法改正におけるポイントをわかりやすく解説
契約書・リーガルチェック
2024.11.04 ー 2024.11.06 更新
約款と契約書は、取引や契約において重要な役割を果たす文書ですが、その性質や用途には大きな違いがあります。
約款は、事業者が多数の顧客と同一の条件で取引を行うために、あらかじめ定めた契約条項のことを指します。一方、契約書は特定の当事者間で個別に交渉し、合意した内容を文書化したものです。
約款は、保険、運送、銀行取引など、大量かつ定型的な取引で広く使用されています。これにより事業者は効率的に業務を遂行し、顧客との間で公平な取引条件を維持することができます。契約書が個別の交渉を要するのに対し、約款は一律の条件を提示するため、迅速な取引が可能となります。
ただし約款には消費者保護の観点から一定の規制があり、不当に不利な条項は無効となる可能性があります。契約書と約款の適切な使い分けや、法令に則った運用が求められます。
定型約款(約款)とは
約款は事業者が多数の相手と画一的な取引を行うために、あらかじめ定型的に定めた契約条項のことを指します。一般的に、保険契約や運送契約、銀行取引などの大量取引で使用されます。
約款の特徴は、契約内容が事業者によって一方的に決められ、相手方はその内容を包括的に承諾するか拒否するかの選択肢しかないことです。
約款は取引の効率化と公平性を確保する目的で作成され、同じ種類の取引に対して同一の条件を適用することで、迅速かつ公平な取引を可能にします。また、約款は事業者と顧客の権利義務関係を明確にし、トラブルの予防や解決の指針となります。
近年、インターネットの普及に伴い、オンラインサービスの利用規約なども約款の一種として扱われるようになりました。これらは、サービス提供者と利用者の間の権利義務関係を規定し、サービスの適切な利用を促進する役割を果たしています。
約款は、2020年4月1日の改正によって民法上の「定型約款」として位置づけられました。一定の要件を満たす場合に法的効力を持ち消費者の利益を不当に害する条項は無効とされるなどの規制も設けられています。
契約書と約款の主な違い
契約書と約款の主な違いは、その作成方法と適用範囲にあります。
契約書は当事者間で個別に交渉し、対等な立場で合意内容を詳細に記載する文書です。一方、約款は事業者が予め一方的に定めた取引条件を示すものです。契約書が特定の取引に対して作成されるのに対し、約款は同種の取引に広く適用されます。
また契約書は当事者間で内容を協議し双方の意思が反映されますが、約款は基本的に変更の余地がなく、利用者は内容をそのまま受け入れるか取引自体を行わないかの選択肢しかありません。
さらに契約書は通常、取引ごとに新たに作成されますが、約款は一度作成されると長期間にわたって使用されることが多いです。契約書が個別の状況に応じて柔軟に対応できるのに対し、約款は画一的な取り扱いを可能にします。
これらの違いにより契約書は複雑で大規模な取引に適している一方、約款は大量の定型的取引を効率的に処理するのに適しています。
約款が利用される具体的な場面
約款は日常生活のさまざまな場面で利用されています。最も一般的な例として、保険契約が挙げられます。生命保険や自動車保険などの契約では、保険会社が事前に定めた約款に基づいて契約が締結されます。
また、公共交通機関の利用時にも約款が適用されており、鉄道やバスの乗車券を購入する際に、運送約款に同意したとみなされます。
インターネットサービスの分野でも約款は広く使用されています。オンラインショッピングサイトやSNSなどのウェブサービスを利用する際、利用規約という形で約款に同意することが求められます。銀行取引においても、預金口座開設時に約款への同意が必要となります。
その他には、携帯電話やインターネット回線などの通信サービス契約、ホテルや旅館の宿泊契約、レンタカーの利用契約なども約款が適用される典型的な例です。これらの場面では、サービス提供者が事前に定めた条件に基づいて、大量かつ定型的な取引が行われています。
このように約款は私たちの日常生活に深く浸透しており、多くの取引や契約において重要な役割を果たしています。
大量の取引を効率的に処理し契約内容の統一性を保つ上で、約款の利用は不可欠となっています。
契約書における約款の役割と重要性
契約書における約款の役割は、取引の効率化と標準化を図ることにあります。
大量の同種取引を行う企業にとって、個別に契約書を作成することは時間と労力の面で非常に非効率です。そこで約款を活用することで契約内容を事前に定型化し、迅速かつ公平な取引を実現することができます。
約款は契約の基本的な条件や取引のルールを定めた文書であり、契約書の一部として機能します。これにより取引の都度、細かな条件を交渉する必要がなくなり、業務の効率化につながります。顧客間の公平性や透明性も確保できます。
さらに、約款は法的リスクの軽減にも貢献します。事前に弁護士等の専門家のチェックを受けた約款を使用することで、法的な問題が生じるリスクを最小限に抑えることができます。また、トラブルが発生した際の対応方法も約款に明記されていることが多く、紛争解決の指針としても機能します。
このように、約款は契約書の重要な構成要素として、取引の効率化、標準化、リスク管理に大きな役割を果たしています。
企業側から見た約款のメリット
企業にとって約款を利用することには多くの利点があります。
- 取引の効率化、コスト削減
- 顧客間の公平性と透明性の確保
- 法的リスクの軽減
まず多数の顧客と同じ条件で契約を結ぶ際、個別に契約書を作成する必要がなくなり、時間と労力を大幅に削減できます。また、約款を使用することで取引条件の標準化が可能となり、企業内での業務の一貫性が保たれます。
さらに、約款は法的リスクの軽減にも寄与します。例えば責任の範囲や免責事項を明確に定めることで、予期せぬトラブルに対する企業の保護が強化されます。
約款を作成する際は、弁護士等の専門家によるチェックが欠かせません。専門家によって慎重に作成された約款は企業の利益を守り、潜在的な紛争を未然に防ぐ役割を果たします。
このように約款は企業の効率性向上、リスク管理、コスト削減、ブランド戦略など、多岐にわたる面で大きな利点をもたらします。
消費者・利用者から見た約款のメリットとデメリット
約款は消費者や利用者にとって、メリットとデメリットの両面を持ち合わせています。メリットは以下のようなものがあります。
- 取引の迅速化
- 他の顧客との公平性
- 企業側のコスト削減によって、より充実したサービスを受けられる
まず取引の迅速化が挙げられます。事前に定められた条件により個別交渉の必要性が減少し、サービスの利用開始までの時間が短縮されます。
また同一条件での取引が可能となるため顧客間での公平性が確保されやすくなります。さらに、企業側のコスト削減が利用者への価格還元につながる可能性もあります。
次に、デメリットは以下のとおりです。
- 約款の一つひとつの項目を理解するのが大変
- 読まずに同意してしまう傾向がある
- 約款の変更の権利は事業者側にある
デメリットとしては、約款の内容が複雑で理解しづらい場合があることが挙げられます。多くの場合、利用者は約款を十分に読まずに同意してしまう傾向にあり、後々トラブルの原因となることがあります。
また、事業者側に有利な条項が含まれている可能性もあり消費者の権利が制限されるケースも存在します。約款の一方的な変更により、利用者が不利益を被る可能性もあります。
このように、約款は取引の効率化や公平性の確保といった利点がある反面、内容の理解困難性や権利制限のリスクといった課題も抱えています。消費者や利用者は、これらのメリットとデメリットを十分に理解した上で、約款に基づくサービスを利用することが重要です。
定型約款と契約の具体的な違い
定型約款と契約には、いくつかの具体的な違いがあり、おおまかには以下のとおりです。
契約 | 定型約款 | |
双方の立場 | 同等の立場で合意内容を定める | 事業者が一方的に策定する。 |
合意、交渉の余地 | 互いに交渉して契約内容を譲歩することができる | 利用者は合意してサービスを利用するか、合意しない場合はサービスを利用できない |
個別の取扱い | 相手によって各別の取扱いが可能 | 顧客による差がなく、画一的で公平な取引が可能 |
変更・更新 | 互いの話し合いによって変更、更新が可能 | 原則として事業者が一方的に変更可能 ※利用者に不利な場合などは、無効となるか同意が必要になる場合がある |
内容についての当事者の理解 | 個別契約のため、内容を理解しているケースが多い | 約款を読まずに契約してトラブルになるケースがある |
作成・管理コスト | 個別作成のため、コストが高い | 初回リーガルチェックのコストが必要(推奨)。その後は比較的低コストで運用可能。 |
合意の方法 | 記名(署名)・押印や電子署名を行う。またはインターネットによる利用者登録など。 | 契約に付加して「□ 利用規約(定型約款)に同意した」の項目にチェックをつけるなどの方法による。 |
作成方法において、契約書は当事者間で個別に交渉し合意を形成しますが、定型約款は事業者が一方的に作成し、相手方はその内容を包括的に承諾します。
法的効力の面では、契約書は当事者間の合意に基づく拘束力を持ち、定型約款は民法上の一定の要件を満たせば成立してその内容が契約としての拘束力を持ちます。
これらの違いにより、定型約款は大量の取引を効率的に行うために利用され、契約書は個別の取引関係をより詳細に規定する際に用いられます。
定型約款の変更ルール
定型約款の変更には一定のルールが設けられており、事業者は無制限に内容を変更することはできません。利用者に不利な変更は、利用者への不意打ちになってしまうためです。
利用者の同意なく変更が認められるのは、利用者の利益に適合する場合や、契約の目的に反せず、かつ変更の必要性や内容の相当性などの要件を満たす場合に限られます。(民法第五百四十八条の四)
変更時には、原則として変更内容と効力発生時期を事前に周知する必要があります。通知方法は、ウェブサイトへの掲載や電子メールの送信など、取引の性質に応じた適切な方法を選択します。
相手方に不利益を与える変更の場合は、単なる周知だけでは不十分で、個別の同意を得る必要があることもあります。また、変更が合理的な範囲を超えている場合や、周知が不十分な場合には、変更が無効とされる可能性もあります。
変更の際は内容を明確かつ簡潔に説明することが重要であり、変更箇所を明示して新旧対照表を提供するなど、ユーザーが変更内容を容易に把握できるような工夫も効果的です。
このように、定型約款の変更には慎重な対応が求められ、利用者の利益と事業者の必要性のバランスを考慮することが重要です。
変更が無効とされる場合の条件
以下の条件の双方に該当する約款の変更は不当なものとして、合意の対象外となります。
- 利用者の権利を制限し、義務を加重する条項であること
- 社会通念、信義則に反して利用者の利益を一方的に害すると認められるもの
- そのほか公序良俗に反する場合や犯罪を助長するなど、契約として無効なもの
例えばサービスの本質的な部分を大幅に変更したり、利用者の権利を著しく制限したりする変更は認められません。また、変更の必要性や合理性が欠如している場合も無効とされる可能性が高くなります。
変更手続きの面でも、適切な通知や周知がなされていない場合は変更を主張できないことがあります。例えば、変更内容を利用者に十分に周知せずに突然適用したり、変更の理由や内容を明確に説明しなかったりした場合はトラブルの原因となります。
定型約款に関する民法改正の影響
2020年4月に施行された改正民法により、定型約款に関する新たな規定が設けられました。改正前は約款に関する明確な規定がなく判例や学説に委ねられていましたが、改正後は定型約款の定義や変更ルールが明確化されました。
具体的には、定型約款の有効性や変更についての手続きが法律上明確になり、事業者と消費者の双方にとって予測可能性が高まりました。また、不当な条項の追加に対する規制も導入され、消費者保護の観点からも重要な改正となっています。
定型約款に関する民法改正は、現代の取引実態に即した法的枠組みを提供し、公平で透明性の高い取引環境の整備に貢献しています。
『利用規約』を改正民法に対応させる重要性
改正の影響により、これまで利用規約・約款を使用してきた事業者は、改正における定型約款のルールを守るために内容を見直すことが求められます。
具体的には、次のポイントを検討し組み入れる必要があります。
- 利用規約を契約の内容とすることを明確に表示する
- 利用者の利益を一方的に害する条項を含めない
- 利用規約の内容と表示方法を明確に定める
- 利用規約の変更は民法に定められた通りに行い、変更後の規約を通知・表示する
以上の項目について明確に対応できていない、または不安がある場合には弁護士によるリーガルチェックを受けるなどして対応すると良いでしょう。
約款を作成・運用する際の注意点
約款を作成・運用する際には法的要件を満たしつつ、利用者にとって公平で分かりやすい内容にすることが重要です。
まず、約款の内容が民法や消費者契約法に違反していないか確認し、不当な条項を避けることが必須です。また、利用者に対して約款の内容を適切に開示し、容易に閲覧できる状態にすることも求められます。
約款の変更を行う際には、変更の合理性や必要性を十分に検討し、利用者に不利益を与えないよう配慮する必要があります。変更内容の周知方法や時期についても、利用者の利益を考慮して適切に設定しましょう。
業務内容や取引の性質に応じて、約款と個別契約を適切に組み合わせることで、より柔軟で効果的な契約関係を構築できます。
約款の運用は長期的なコストや法的リスク削減のため、初回には必ずリーガルチェックを行い、その後は定期的なリーガルチェックが強く推奨されます。法改正や社会情勢の変化に対応するため、定期的な見直しと更新が重要となるでしょう。
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定型約款を作成する場合、弁護士によるリーガルチェックを受けるのがオススメです。
特に初回の作成時に不備があるとその後の取引で広範囲かつ長期的なリスクを負うことになってしまうため、リーガルチェックの効果はより大きくなるでしょう。
また民法改正が行われた2020年4月以前から利用規約や約款を利用していた事業者においては、改正に対応させるためにリーガルチェックを受けることをおすすめします。
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