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IPO(新規株式公開)とは?新規公開株の基本や用語の定義などを解説
起業支援・IPO・上場支援
2024.10.21 ー 2024.11.04 更新
IPOとは
IPOとは、新規公開株式(Initial Public Offering)を意味し、企業が初めて一般の投資家に株式を公開販売するプロセスを指します。企業は株式を証券取引所に公開し、広く資金を調達することが可能となります。
IPOは、企業にとって資金を得るための重要な手段であり、成長や事業拡大を目指す際には欠かせないステップです。また、IPOを通じて企業は市場からの認知度を高め、信頼性を向上させるとともに、経営の透明性を求められるようになります。
一方で、IPOは企業にとって多大な準備とコストが伴うため、慎重な計画と実行が求められるプロセスでもあります。
IPOの基本的な定義と意義
IPO(Initial Public Offering)とは、企業が初めて公に株式を公開し、一般の投資家に売り出すことを指します。
前提として、株式は証券取引所等で誰でも売買が可能な『公開株式』と、そうでない『非公開株式』に分かれます(非公開株式は、会社法の用語では『譲渡制限株式』といいます。)。そして、日本では実に99%以上の会社が自社株式を全て非公開株式としている『非公開会社』にあたります。
株式の所有者は、会社の役員を定めるための議決権や、配当、あるいは解散時の残余財産を得る権利を持ちます。そのため、家族会社や一般の中小企業では基本的に株式を公開せずに会社の所有を保っており、多くは一般投資家を募る必要もありません。
これに対し、投資家から資金を集めて事業を拡大させたい場合や事業の公益性が強くなった場合などに、新規株式を公開株として発行するIPOの手続きが行われます。
これにより企業は財務基盤を強化し、成長を加速させることが可能となります。公開会社になると企業は透明性を求められるとともに、経営に対する市場の信頼を獲得することが期待されます。
また知名度もアップするため企業の信用力が向上し、さらなる投資を呼び込み市場での競争力を高めることができます。
一方で、IPOには複雑な手続きや規制が伴い、準備には多大な時間とコストがかかることも忘れてはなりません。基本的に準備期間から3年以上を要する大規模な手続きとなるため、企業は適切なタイミングと戦略を持ってIPOの実施を計画する必要があります。
このように、IPOとは企業にとって非常に重要な資金調達手段であり、その成功は企業の将来に大きな影響を与えます。
IPOと上場の違い
IPO(新規公開株)と上場は一般的に同じ意味で使われることが多いですが、実際には微妙な違いがあります。
共通しているのはどちらも「証券取引所に株式を公開し、不特定多数の投資家による売買を可能にする」という点です。
IPOのIはイニシャル(新規の)を意味し、未上場企業が初めて株式を公開し一般投資家に売却するプロセスを指します。これに対して、上場は新規株式の発行と既存の株式の公開を同時に行って売り出すケースも含まれます。
直接上場(ダイレクトリスティング)との違い
直接上場とは、株式の新規発行を伴わずに既存の株式だけで上場を行うことです。
直接上場(ダイレクトリスティング)とIPOの違いは、資金調達の有無と上場プロセスにあります。
IPOでは、企業が新たに株式を発行して市場に上場することで投資家から資金を調達します。一方、直接上場では新たな株式の発行が行われず、既存の株主が保有する株式が市場に公開される形式です。
直接上場では企業は資金調達を目的としないため、証券会社による価格設定やアンダーライティングプロセスを経る必要がありません。また、直接上場は上場前の準備期間が短くなる傾向があり、迅速な市場参入が可能です。しかし、IPOと比較すると、株価の安定性や初日の取引価格設定に対する影響が大きくなるリスクがあります。
IPOとPOの違い
IPOと似た言葉でPO(Public Offering)があります。IPOとPOの違いについて理解するためには、まずそれぞれの意味を正確に把握することが重要です。
IPO(新規公開株式)は、企業が初めて株式を公開し、一般投資家に向けて販売するプロセスです。これに対して、PO(公募増資)は、すでに上場している企業が新たに株式を発行するか既存株式について、一般投資家に向けて販売する方法を指します。
IPOの主要な目的は、企業が新たな資金を調達すること、企業価値の向上、そして市場での認知度を上げることです。一方、POの目的は追加の資金調達や株主構成の変更、事業拡大のための資金確保などが挙げられます。
IPOとPOでは、株式の取り扱いやプロセスにいくつかの違いがあります。IPOは通常、はじめて市場に上場するため、企業は厳しい審査を受ける必要があります。また、IPOの際には、企業価値の評価や株価設定などが重要な課題となります。
POの場合、既に上場している企業に対する信頼性があるため、審査プロセスは比較的緩やかですが、適時適切な情報開示が求められます。
さらに、IPOは一般投資家に対して大々的にアピールする必要がありますが、POでは既存の株主を含めた特定のターゲットに対して行われることが多いです。これにより、IPOは多くの新しい投資家を引き付ける一方、POは比較的限定された範囲で行われる特徴があります。
最後に、IPOとPOの違いを理解することで、企業や投資家は適切な戦略を選択し、効果的な資金調達を実現することができるでしょう。
投資家から見たIPO
IPOは、投資家にとって大きな投資のチャンスになります。IPOを行ったベンチャー企業の成長が著しく大きければ、それだけ大きな投資利益となるためです。
一方で、IPOを行った企業の経営が上手くいかなければ早期倒産の可能性も否定できません。そのため、既存の上場株式の売買と比べるとIPO株はハイリスクハイリターンな投資商品であると言えます。
IPOの際は投資家による購入の申し込みが多くなる場合が多く、割り当ては抽選によって行われます。IPO株はNISAからの申し込みも可能です。
IPOのメリットとデメリット
IPOのメリットとしては、まず資金調達が挙げられます。新しい資金を得ることで、事業拡大や新プロジェクトの立ち上げが容易になります。また、上場することで企業の知名度や信頼性が向上し、人材の確保や取引先の拡大にも寄与します。
一方、主なデメリットはコスト面です。上場には多額の費用がかかり、また内部統制の整備や監査法人の選定などの準備が必要です。さらに、上場後は四半期ごとの財務情報の公開義務が生じるなど透明性がより求められることから、企業経営にかかるプレッシャーも増大します。また、株価の変動により経営戦略の変更を余儀なくされることもあります。
以上のように、IPOには多くのメリットとデメリットが存在し、企業にとっては慎重な検討が必要となります。
以下では、企業、株主、従業員のそれぞれの目線からのメリットデメリットを解説していきます。
企業にとってのメリット
I企業にとって最も顕著なメリットは、資金調達方法の多様化と大規模な資金を獲得できる可能性が挙げられます。
株式市場に上場することで企業は新たな株式を発行し、広範な投資家から資金を集めることができます。この資金は研究開発や設備投資・マーケティングなど、成長戦略を推進するための貴重な資源となります。
また、IPOを通じて企業は知名度を向上させることができます。上場企業としてのブランド力は信頼性や社会的信用を高め、取引先や顧客、さらには優秀な人材の獲得にも貢献します。
さらに、株式市場での評価により企業価値が明示されるため、企業自身の価値を客観的に把握することが可能となります。
経営面においても、IPOはガバナンスの強化に寄与します。上場に伴い法的にも厳格な規制や監査制度が必要となるため、内部統制の整備や企業の透明性向上を促進します。これにより、企業の長期的な持続可能性が高まるとともに、投資家やステークホルダーからの信頼を得ることができます。
企業にとってのデメリット
企業がIPO(新規株式公開)を実施する際の主なデメリットはいくつかあり、まずは上場に伴うコストが非常に高額である点が挙げられます。
まず、監査法人への監査費用や証券会社への手数料、上場申請書類の作成費用などが含まれます。さらに、IPO後は定期的な財務情報の公開義務が生じるため、関連する管理コストも増加します。
次に、経営の自由度が低下する可能性があります。不特定多数の株主や社会からの期待を考慮しながら経営を進める必要があり、短期的な利益を優先するプレッシャーが強まることがあります。
さらに、IPOによって企業内部の情報が公開されるため、競合他社への情報漏洩リスクも高まります。これにより、経営戦略の柔軟性が制限される可能性があります。
最後に、上場後は市場の評価にさらされるため、株価の変動が企業の信用や取引条件に影響を及ぼすこともあり得ます。これらのデメリットを考慮し、IPOの利点とリスクを十分に評価することが重要です。
株主にとってのメリット
株主にとってIPOの大きなメリットは、保有する株式の価値が大きく向上する可能性がある点です。
IPOによって企業が株式市場に上場する際、初公開価格が設定され、市場による評価が始まります。市場の需要と供給に基づいて株価が決まるため、企業の魅力や業績が評価されると株価が上昇することがあります。特に、成長が期待される企業のIPOでは短期間で株価が大幅に上昇することも珍しくありません。
また、IPOを通じて株式が市場で自由に取引できるようになるため、流動性が向上します。これにより株主は自分の保有する株式をいつでも売却することが可能になり、投資を現金化しやすくなります。
さらに、株主はIPOによって企業の株価が高まることで、実質的な財産が増えるメリットも享受できます。結果として、これらの資産増加や流動性向上は株主にとって大きな魅力となります。
株主にとってのデメリット
IPOにおいては株主にとってのデメリットも存在します。
まず一つ目のデメリットとして、株価の不安定性が挙げられます。IPO後、株価が市場の動向に大きく左右されやすく、短期的には価格が大きく変動することがあります。このため、株主は投資のリスクを常に考慮する必要があります。
次に、希薄化の問題もあります。企業が新たに株式を発行することで既存株主の持ち株比率が低下し、役員の選任権や議事の提案権など、既存株主の影響力が減少する可能性があります。
また、IPOによって株式が広く分散されるため、経営に対する個々の株主の意見が反映されにくくなることもあります。さらに、情報公開の増加によって企業の内情が透明化される一方で、競争相手にビジネスモデルや戦略が明かされるリスクも生じます。
こうした要素が複雑に絡み合うため、株主はIPO後の動向を慎重に監視し、適切な判断を下す必要があります。
従業員にとってのメリット
IPOは、企業の既存の従業員にも様々なメリットがあります。まず、IPOによって企業の資金調達が容易になり、新しいプロジェクトや事業拡大のための資金が確保されるため、従業員はより多くのビジネスと成長の機会に恵まれます。これにより、キャリア発展や昇進のチャンスが増えることが期待されます。
また、IPOの前に従業員に対してストックオプション(新株予約権)や株式を付与しておくことが一般的です。これにより企業の成長とともに従業員の資産価値も上昇する可能性が高まり、モチベーションの向上につながります。
さらに、企業としての透明性やガバナンスが強化されることで職場環境が改善され、従業員の信頼感と働きやすさが増す効果も期待できます。
このように、IPOによる企業の成長と変革は従業員に多様なメリットを提供し、個々のキャリアと経済的な利益に直結する機会を生むと言えます。
従業員にとってのデメリット
従業員にとってのIPOのデメリットは、まず株式市場のプレッシャーが大きくなる点が挙げられます。
すでに高い業務負荷を抱えている従業員が、上場企業特有の厳しいコンプライアンスや報告義務に対する対応を求められることが多くなります。
さらには企業の業績が株価に反映されるため、短期的な業績向上に重点が置かれる傾向が強まり、長期的なビジョンやイノベーションが疎かにされるリスクも存在します。
ストックオプションや付与された株式の売却等によって報酬を受け取るケースもありますが、株価の変動により価値が大きく左右されるため、経済的な不安定さが伴うケースもあります。
これらのデメリットはメリットの裏返しでもあり、充分に考慮しながら従業員に対する適切なサポートやガイダンスを行うことが必要不可欠です。
IPOを目指すための準備
IPOを目指す企業が成功するためには、入念な準備が不可欠であり、各証券取引所に上場するには一定の条件が設けられています。
条件は厳格で、株式数や資産等の数字や事実で確認できる『形式的基準』と、実態が審査される『実質的基準』に分けられます。
各条件を満たすためには、次のような項目について準備が必要になります。
- 資本政策
- 内部統制の整備
- 監査法人の選定
- 取締役会の設置
- 社内体制の構築
適切な監査法人による定期的な監査や取締役会の設置等が必要になるなど、各会社の基盤を強化し意思決定の透明性を確保することも大切です。
さらに社内体制の構築には適切な人材を確保し、各部門が円滑に連携できる環境を整えることが求められます。
以下、これらの準備についてさらに詳しく解説していきます。
資本政策
資本政策は、企業がIPOを目指す際に極めて重要な役割を果たします。資本政策として考慮すべきは、既存株主の利益保護、新たな投資家を引きつけるためのバランス、会社および従業員の経済力確保と向上、価値の社会への還元などです。
例えば、株式の発行比率や新規株式の種類および発行価格は慎重に設定されるべきです。発行する株式の種類や比率によっては、既存株主の権利と影響力が希薄化する可能性もあります。
IPOの際は、こうした影響を抑えつつ、一定の資本を確保できるよう設定することが大切です。
資本政策は企業のガバナンスにも大きく影響を与えます。外部からの資金を導入することで、企業の経営はより透明性が求められるようになり、内部統制の強化や監査の徹底が不可欠となります。したがって、資本政策は単なる資金調達のための手段ではなく、企業全体の成長戦略やガバナンス強化を支える重要な柱として位置づけられます。
IPOの手続きにかかる費用は、後ほどさらに詳しく解説していきます。
内部統制の整備
内部統制の整備は、IPOを目指す企業にとって必須のプロセスです。内部統制とは、企業が目標を達成するために業務の適正を確保し、リスクを管理するための制度やルールのことであり、IPOの準備では特に重視されます。
具体的には、財務報告の信頼性を確保するための会計システムの整備や、業務プロセスの標準化、内部監査の実施などが含まれます。
財務報告の信頼性確保は、投資家への信頼を築くために不可欠であり、適切な会計方針の導入と継続的な監査が求められます。
また、業務プロセスの標準化によって業務効率が向上し、不正行為の予防にもつながります。これらに対する内部監査や自浄能力も重要であり、定期的な監査を通じてリスク管理が遵守されているかを確認します。
内部統制の整備は、コンプライアンスの確保にも寄与します。各種法令や規則に従いつつ透明性の高い経営を行うことで、企業は社会的信頼を獲得し、長期的な成功を目指すことができます。
監査法人の選定
上場にあたり、2年の財務諸表の監査がIPOの条件とされます。監査法人は企業の財務情報を精査し、透明性と信頼性を確保する役割を果たします。
このため、IPOを目指す企業は自社の状況に最も適した監査法人を慎重に選ぶ必要があります。選定基準としては、業界専門性、企業規模に応じた監査経験、そして監査品質が重要です。
企業規模に応じた監査経験がある監査法人は、企業固有の課題にも対応しやすいです。監査品質に関しても、過去の実績や監査報告書の評価を確認すると良いでしょう。
取締役会の設置
IPOの形式的基準として、取締役会の設置も求められます。
取締役会とは取締役3人以上による会議体であり、公開会社となるためには監査役の設置も必要になります。(なお、さらに大規模な会社においては、監査等委員会や指名委員会等設置会社という組織体系もあります。)
独立した意見を持つ取締役を一定数含めることで、外部からの視点を取り入れ、企業の透明性と信頼性を高めることができます。
今後の企業成長を見据えた戦略的な議論が行われることで、IPO後の成長基盤を築くことができます。
社内体制の構築
IPOを成功させるためには、適切な社内体制の構築が重要です。
IPOは監査の期間も含めると3年またはそれ以上の期間が必要になる手続きです。この長期手続きに対応するには法務部門や専門の部署を作成するなどして、監査法人とのやりとりや資料・スケジュールの整理、内部統制等を行うとスムーズです。
さらに、ストックオプションや株式の付与など、全社員がIPOの意義とプロセスを理解し、社内コミュニケーションを円滑にすることで、組織全体として一体感を持って進めることができます。
IPOにかかる費用と資金調達
IPOの手続きでは、トータル数千万円単位の資金が必要になります。IPOにかかる費用は多岐にわたり、次のような要素が含まれます。
- 人材補強費用
- 利益管理制度構築や内部統制強化のシステム導入や人材育成
- 監査法人による監査費用
- 証券会社へのコンサルティングフィー
- 証券取引所への新規上場料金、及び年間手数料
- 株式の公募、売出しに関する費用
- 上場申請書類の作成費用
- その他の関連費用
IPOによって資金調達できるのはあくまでIPOの手続き後であり、IPOを行う際は、それに見合った資金調達戦略を策定することが求められます。
これらにかかる費用は一定の期間にわたって継続的に発生するものが多いため、事前の資本政策の重要性が高まります。全体として、IPOは単に上場するだけでなく、企業体制を強固にするための多額の資金を伴うプロセスです。
以下、おおよその目安金額等と共に各費用を紹介していきます。
人材補強費用
目安金額:従業員の員数やスキルアップの幅により異なる
IPOを目指す企業にとって、優秀な人材の確保は不可欠です。そのため、人材補強費用は重要な投資となります。
IPO準備過程では、特に財務や法務、内部統制といった専門知識が求められるため、これらの分野で経験豊富な人材の採用が必要です。このような専門人材の採用には高いコストが伴いますが、上場を成功させるための基盤を支える上で不可欠です。
また、既存の社員のスキルアップも重要であり、研修やセミナーを通じた教育費用も含まれます。上場後の持続的な成長を支えるためには営業やマーケティング部門でも優秀な人材の補強が必要です。これにより企業は市場での競争力を保持し、株主価値の最大化を図ることが可能になります。
人材補強は短期的な費用ではなく、長期的な投資と捉えるべきです。
利益管理制度構築費用や内部統制強化のためのシステム導入や人材育成
目安金額:実情により異なる
IPOを成功させるには、人材補強や育成のほかに社内の利益管理制度や内部統制などのシステムづくりが非常に重要です。
利益管理制度を整備することで、会計の透明性を高めると同時に浪費をなくし、将来的な利益計画を策定しやすくします。
システムの構築には設備投資の初期費用や人材育成、研修費などのランニングコストがかかりますが、その投資はIPO後の企業の持続的成長に繋がるため、長期的な視点でのメリットが大きいといえます。
監査法人への監査費用
目安金額:短期調査150万円~400万円、準金商法監査費用1,000万円~2,000万円ほど
各証券会社でIPOを行う条件として、監査法人による2年間分の監査証明が必要とされています。
監査法人とは企業会計や法務を専門とする法人であり、公認会計士5人以上の在籍が条件とされる法人です。数千人の公認会計士が在籍する法人もあります。
通常、IPOの3~4年前の時期に監査法人によるショートレビューと呼ばれる短期調査を行い、企業はこの結果を基にしてIPOに向けて内部統制や利益管理などのシステムを構築していきます。
社内体制の構築が一定程度進んだら再度監査を開始し、2年以上の継続監査を経てIPOの際に提出する監査証明を作成することになります。
この際の短期調査および監査の費用は、企業の規模や複雑さ、監査の範囲によって異なり、中小企業であっても100万円から場合によっては数千万円に達する場合もあります。
監査法人では、法令順守や会計管理などを中心としたコンサルを業務として行うケースもあり、法令順守の面が重視されることから「守りのコンサル」と呼ばれることがあります。
証券会社へのコンサルティングフィー
目安金額:年500万円~2,000万円ほど
証券会社へのコンサルティングフィーは、IPOを成功させるために不可欠な費用の一部です。証券会社は企業に対して、社内体制の構築のほか人材補強や研修などIPOの成功のための積極的なアドバイスやサポートを行います。
IPOの成功が証券会社の成功でもあるため、その他にも適切な評価額の算定や株式市場の分析、投資家との関係構築など多岐にわたるサポートを提供します。
このほか、上場手続きのコンサルティングを別で依頼するケースもあります。企業は証券会社との契約内容やフィーの構成をよく理解し、予算計画に組み込むことが求められます。
上場審査料、新規上場料および年間手数料
目安金額:上場審査料100万円、上場手数料200万円~1500万円、年間手数料60~150万円
証券取引所への新規上場料金は、東京証券取引所や名古屋証券取引所など主要な証券取引所ごとに異なる料金体系があります。
市場の種類にもよりますが、基本的にこれらの料金には上場初年度の年間上場料と新規上場審査料が含まれます。
新規上場審査料は、企業が提出する上場申請書類の審査にかかる費用であり、これも市場ごとに異なります。また、年間上場料は企業の規模や株式数に応じて設定されており、上場初年度に一括で支払うケースが一般的です。
株式の公募、売出しに関連する費用
公募、売出しの際は、株式数に応じて以下の費用が必要になります。
- 公募の場合 公募株式数 × 公募価格 × 0.0009
- 売出しの場合 売出株式数 × 売出価格 × 0.0001
端数は100円未満切り捨てになります。
上場申請書類の作成費用
目安金額:200万円~500万円
上場申請書類の作成は、専門の印刷会社へ依頼するのが一般的です。この費用は、上場の準備過程で発生する専門的な書類の作成に関するもので、金融商品取引法に基づく多岐にわたる情報を正確に提供するために必要です。
具体的には、目論見書、財務諸表、企業情報開示書などの作成が含まれます。
その他の関連費用
IPOの準備には、下記のような関連費用が伴います。
- 弁護士費用
- 登記費用(司法書士報酬、登録免許税)
- 株式事務代行手数料(株主名簿管理費用)
まず、法律や規制に対応するための法務費用が発生します。リーガルサービスについての弁護士費用は500万円~2,000万円ほどが目安です。
次に、会社の登記事項の変更に伴う登記申請が必要となります。司法書士報酬はIPOにかかる業務量などに応じて30万円から数百万円ほどが目安となるでしょう。
登録免許税は登記の際に法務局に納める税金で、必要手続きによって次のような金額がかかります。
- 取締役会設置 3万円
- 役員の増員、変更 資本金が1億円を超える場合は3万円、超えない場合は1万円
- 監査役設置や株式を公開する変更など 3万円
- 増資 増額する金額 × 0.007 円(最低額3万円)
株式事務代行手数料は株主名簿管理に係る費用であり、上場会社は設置が義務付けられます。株主名簿管理人には証券会社や指定の銀行等が就任することができ、年間の費用は400万円~20,000万円ほどが目安になります。
IPOを行うための審査基準
IPOを行うための審査基準は各証券取引所によって異なっており、複数の要素が含まれます。
基準は、数字や事実によって確認できる形式的基準と、実態について審査される実質的基準に分けられます。
本記事では、グロース市場の形式基準と実質基準について紹介します。
グロース市場の形式基準
上場の際は価格の乱高下を押さえて市場を安定させるため、基準を満たす一定の流通量を確保しなければならないとされています。
グロース市場における形式基準は、次のとおりです。
- 株主数 150人以上
- 流通株式数 1,000単位以上
- 流通株式時価総額 5億円以上
- 流通株式比率 25%以上
- 株式の公募 500単位以上の公募の実施
- 事業継続年数 1年以上前から取締役会の実施実績があること
- 虚偽申請や不適正な意見の有無 監査報告書などで不適正および虚偽記載がないこと
- 単元株式数 100株以上
- 株式の種類 指定された株式の種類であること
- 譲渡制限 IPOに係る株式に譲渡制限がないこと
- 振替機関 指定振替機関の取扱い対象であること
グロース市場の実質基準
グロース市場の実質基準は、企業が上場を目指す際に重要な要素の一つです。
実質基準では、次のような企業の収益性や成長性、健全性などが厳しく評価されます。
- 健全な企業経営がされていること
- 適切なコーポレートガバナンス・内部統制が運用されていること
- 適切な情報開示が行われていること
- 財務基準が適正で、事業計画書が合理的に作成されていること
上記のほか東証が定めるとおり、株主の権利保護や会社の争訟の有無、公益性、反社会勢力との繋がりなどが審査されます。
総じて、グロース市場の実質基準は、企業が持続的な成長を遂げるための土台を確認し、市場参加者に信頼性を提供することを目的としています。
これらの基準をクリアすることで、企業はより高い評価を得ることができ、上場後の成功につながります。。
IPO実現までのスケジュール
IPO実現までのスケジュールは、企業にとって非常に重要なプロセスです。まず、経営陣は具体的な上場目標日を設定し、その逆算に基づいて詳細なスケジュールを策定します。
準備期間は通常3年から5年とされ、その間に内部統制の整備や資本政策の最適化が進められます。
標準的なIPOのスケジュールは次の通りです。
IPOの想起(申請の5年前~3年前)
- ショートレビュー
- 届出書の開示期間
- 内部管理制度準備期間
ショートレビューとは、監査法人が1週間ほど集中的な監査を行いIPOへの課題とスケジュールを明確にする手続きです。
企業がIPOを想起した時点では、IPOの必要事項や費用・スケジュールなど、ほとんどのことが不明な状態であることが多いでしょう。
そのため初期の段階で監査法人のサポートを受け、まずはIPOへの課題を明確にします。
その後は申請準備期間に向けて、取締役会の設置や内部統制の構築、費用の準備、弁護士の選定及び依頼などを行っていきます。
直前々期(申請する年の前々年~前年)
申請の前々年からは、申請に必要となる金融証券取引法に準じた監査が開始されます。
この期間は申請の準備期間となり、申請書類の作成や各専門家、コンサルとのやりとりも増加します。
引き続き、内部統制機関の構築や利益管理、人材育成・補強等を行い、直前期の運用においては全ての内部体制が整備された状態になっていることが望ましいです。
直前期(申請する年の前年)
直前期では、監査証明や上場先によっては四半期レビューなどの監査結果を記載した書面の作成等が行われ、監査法人による監査も引き続き行われます。
繰り返しになりますが、この直前期においては取締役会や利益管理体制など、内部の統制管理体制が整った状態での運営が開始されていることが望ましいです。
また、直前期には資本が大きく変動しないよう、資本政策に関して一定の制限が加わります。
全てが計画通り進行すればIPOの申請を行い、審査期間を経てIPOが達成されます。
IPO後の企業経営の注意点
IPO後の企業経営においては、まず株価の維持と株主対応が重要です。株価が安定することで企業の信頼性が向上し、新たな資金調達やパートナーシップの機会も広がります。
そのためには、上場後のガバナンスの強化およびコンプライアンス対応も不可欠です。外部監査や内部統制を徹底することで、企業の透明性と信頼性を高めます。
財務情報の公開義務により、投資家や市場への適切な情報提供が求められます。この透明性の向上が企業のブランド価値を支え、長期的な成長に寄与します。これらの要素を漏れなく管理することが、IPO後の企業経営において成功するための鍵となります。
IPOにおける株式市場の選択
IPOを行う際、企業はどのマーケットに上場するかを慎重に選択する必要があります。
東京証券取引所のグロース市場は、ベンチャー企業にとって最も一般的な選択肢です。この市場は成長性が高く、将来的な大型市場へのステップアップも見込めます。
一方で、名古屋証券取引所のネクスト市場は地域密着型の企業に適しており、独自のメリットがあります。福岡証券取引所のQ-Boardや札幌証券取引所のアンビシャス市場も、それぞれの地域でのビジネス展開を支援しています。
企業は市場の特性や上場基準を十分に理解し、自社の戦略に最も適した市場を選ぶことが重要です。決定の際は監査法人や証券会社によるアドバイスも踏まえて慎重に検討しましょう。
東京証券取引所:グロース市場
東京証券取引所のグロース市場は、将来的な成長可能性を特に重視しており、特に新興企業やスタートアップ企業向けの市場です。
上場基準については他の市場より柔軟性が高く、比較的経営の実績や財政状態が確立していない企業でも上場しやすい点が特徴です。
その分、投資家及び企業にとってハイリスク・ハイリターンな市場であるとも言えます。
名古屋証券取引所:ネクスト市場
ネクスト市場(旧セントレックス)は、名古屋証券取引所における中小企業やベンチャー企業向けの市場です。
この市場は、成長性や技術力を持つ企業が円滑に上場できるよう設計されており、IPOを目指す企業にとって柔軟な基準が特徴です。
グロース市場の上場の資産要件が時価総額5億円であるのに対し、ネクスト市場では全体の時価総額3億円からの上場が可能となっています。
福岡証券取引所:Q-Board
Q-Boardは、福岡証券取引所の中小企業・ベンチャー企業向けの新興市場です。
資産条件はネクスト市場と同じく3億円で、他の市場と比較して緩やかな上場基準を設けている特徴があります。
新しい技術や独創的なアイデアを持つ企業についての成長性が認められると上場審査に通りやすくなります。
札幌証券取引所:アンビシャス市場
アンビシャス市場は、札幌証券取引所における新興企業向けの市場です。
コンセプトとして『近い将来における本則市場へのステップアップを視野に入れた、中小・中堅企業向けの育成市場』と掲げており、安定した成長を続けている企業や成長が見込まれれる中小企業を上場対象としています。
また、北海道を拠点とするか、または北海道と何らかのつながりを有していることを上場の条件としているのも特徴的です。
上場時の資産要件は1億円であり、地域に寄り添った企業の成長のための市場と言えます。
IPO後の成長戦略
IPO後の成長戦略は、企業にとって非常に重要な要素です。一つの到達点である株式上場ですが、企業の長期的な成長にとっては通過点に過ぎません。
IPOにより得た資金をどのように活用するかが、その後の企業の発展を大きく左右します。
企業はIPOによって得られた資金を効果的に使い、引き続き新規事業や研究開発などの成長分野に投資することが求められます。また、すでに展開している事業の強化にも資金を投入し、市場シェアを拡大することが重要です。
株主や外部に対する情報開示も引き続き適切に行い、信頼を維持して株式評価の向上に引き続き務める必要があります。
企業は持続的な成長を目指し、経営の安定と社会への貢献を目指していくことになるでしょう。
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