COLUMN

売買契約書作成マニュアル|テンプレート付きで簡単スタート

契約書・リーガルチェック

2025.12.032025.12.04 更新

売買契約書作成マニュアル|テンプレート付きで簡単スタート

売買契約書は単なる形式的な書類ではなく、あなたと相手の双方を守る大切な「約束の証」です。

この記事では、売買契約書の基本から種類、作成ステップ、さらにはよくある疑問やトラブル事例まで、初めての方にもわかりやすく解説していきます。

売買契約書とは?基本知識と種類を解説

売買契約書とは、売主と買主が商品や不動産などを売買する際、お互いの約束事を文書にしたものが売買契約書です。口約束だけでも法律上は契約が成立しますが、後々「言った・言わない」のトラブルに発展するリスクがあります。契約内容があいまいなために、「こんな条件は聞いていない」とクレームになったり、支払いが遅れて「支払期限の認識がズレていた」と揉めたりするケースも少なくありません。

売買契約書を作成しておけば、認識のズレを防ぎ、万が一トラブルが起きても「この契約書に書いてある通り」と冷静に対処できます。まさに、信頼関係を守るための道具となるでしょう。

売買契約書には種類があり、取引内容や形態で使い分けます。不動産、一度きりの商品、継続的な取引など、シーンごとに必要な契約書は異なります。代表的な売買契約書の種類と特徴を見ていきましょう。

売買契約書の役割

売買契約書の最も大きな役割は、取引内容を明確にし、双方の認識を一致させることです。

売買契約書では「誰が・何を・いくらで・いつまでに・どのような状態で渡すのか」を具体的に記載します。これにより、納得した条件を文書として残せ、後から「話が違う」となるリスクを大幅に減らすことができます。

また、契約書には証拠としての役割もあります。相手が約束を守らなかった場合、契約書があれば裁判などの法的手続きで「この条件で合意していた」と証明できます。契約書がないと、たとえ正当な主張でも「証拠がない」と判断され、不利な立場になる可能性も。

さらに契約書は、信頼関係を築くためのツールでもあります。お互いに納得した条件を明文化することで、「この人はきちんとした取引をしてくれる」という安心感が生まれ、長期的な信頼関係につながります。特にビジネスでは、契約書の有無が信用度に直結することもあります。

不動産売買契約書の特徴と注意点

不動産売買契約書は、土地や建物といった高額な資産を取引する際に作成されます。一般的な商品売買とは異なり、金額が大きく法律上の手続きも複雑なため、契約書の内容も非常に詳細です。

必ず記載されるのが「物件の特定」です。住所だけでなく「土地の面積」「建物の構造(木造2階建てなど)」「築年数」といった具体的な情報を明記します。曖昧な表現では後々「聞いていた面積と違う」といったトラブルになるため、重要です。

また、不動産売買では「手付金」や「残代金の支払い時期」が重要なポイント。契約時に売買代金の一部(5〜10%程度)を手付金として支払い、引き渡し時に残りを支払う流れが一般的です。この手付金には「解約手付」の意味があり、買主が解除したい場合は手付金を放棄、売主が解除したい場合は手付金の倍額を返還するという役割があります。

さらに、「瑕疵担保責任(契約不適合責任)」にも注意が必要です。これは、物件に隠れた欠陥(雨漏りやシロアリ被害など)があった場合、売主がどこまで責任を負うかを定めたものです。中古物件の場合、売主が個人であれば責任期間を「引き渡しから3か月」などと短く設定することが多く、この期間を過ぎると買主は修理費用を自己負担しなければなりません。

不動産売買契約書を作成する際は、これらの条件を一つひとつ確認し、不明点があれば必ず専門家(不動産業者や司法書士など)に相談することが大切です。

物品・商品売買契約書との違い

物品や商品の売買契約書は、不動産売買契約書と比べるとシンプルな内容になることが多いです。しかし、取引内容に応じて押さえるべきポイントがあります。

まず重要なのは「商品の特定」です。企業間で電化製品を売買する場合、「型番・数量・色・仕様」などを具体的に記載します。「パソコン10台」とだけでは、「どのメーカーのどの機種か」が不明確で、納品時にトラブルになる可能性があります。

また、納品方法と納期についても明記が必要です。物品は「いつ・どこに・どのような方法で届けるか」を具体的に決めなければ、買主が不満を持つリスクがあります。配送中の破損責任についても、事前に取り決めておくと安心でしょう。

継続的取引基本契約書が必要なケース

これまでの売買契約書は「一度きりの取引」を前提としていました。しかし、ビジネスでは同じ相手と繰り返し取引するケースが多く、そんなときに役立つのが「継続的取引基本契約書」です。

たとえば、飲食店を経営していて、毎週決まった八百屋から野菜を仕入れているとしましょう。毎回契約書を作成するのは手間がかかります。そこで、最初に「今後の取引の基本的なルールをまとめた契約書」を作成しておけば、その後の個別取引をスムーズに進められます。

継続的取引基本契約書では、「支払い方法」「納品ルール」「契約期間」などを包括的に定めます。「毎週月曜日に注文、水曜日に納品」「支払いは月末締めの翌月末払い」といった具体的な流れを記載することで、毎回の取引で細かい確認をする手間を省けます。

また、解約条件も明記されます。長期的な関係を前提とするため、どのような場合に契約を終了できるかを事前に決めておくことが重要です。「3か月前に書面で通知すれば解約可能」といった条件があれば、スムーズに対応できるでしょう。


売買契約書作成の5つのステップ

売買契約書の作成は、5つのステップに分けて考えれば、誰でも安全に進められます。大切なのは「いきなり書き始めない」こと。事前準備から最終確認まで、順を追って丁寧に進めることで、トラブルを未然に防ぐことができます。

特に初めて契約書を作る場合、「どこまで書けばいいのか」「何を書き忘れたらマズイのか」という不安も大きいでしょう。

これからご紹介するステップでは、法律の専門家が実際に使う考え方をもとに、一般の方でも実践できるよう整理しました。

ステップ1:事前準備と交渉内容の整理

売買契約書を作る前に、まずは「何をどう取り決めたのか」を明確にしましょう。口頭で「だいたいこんな感じで」と合意していても、いざ契約書に落とし込もうとすると「細かい部分を決めてなかった」と気づくことがよくあります。

この段階で整理したい主な項目は以下の通りです。

  • 取引の対象物: 商品名、型番、数量、状態(新品・中古、傷の有無など)を具体的に。
  • 代金の金額と支払条件: 総額、内訳(本体価格、消費税、送料など)、支払期限、支払方法(現金振込、分割払いなど)。
  • 引渡しの時期と場所: 「〇月〇日までに」「売主の倉庫で」など具体的に。
  • 所有権の移転時期: 代金完済時か、引渡し時か。
  • 検査や確認の方法: 引渡し時に買主が動作確認できるか。
  • 特約事項: 口頭で約束した特別な条件(例:「トナー2本を無料で付ける」など)。

これらを整理する際は、メールやメッセージのやり取り、打ち合わせのメモを確認すると良いでしょう。曖昧な部分があれば、契約書を作る前に相手方と再確認することが大切です。

ステップ2:適切な雛形の選択と入手方法

事前準備が整ったら、次は「どの雛形を使うか」を決めます。売買契約書の雛形は、インターネット上の無料公開から有料の書式集、専門家作成のテンプレートまで多様です。ここで大切なのは、「自分の取引内容に合った雛形」を選ぶことです。

まず、取引の種類によって雛形を選び分けましょう。「動産(車・機械・商品など)の売買」なのか、「不動産(土地・建物)の売買」なのか、「無形資産(知的財産権など)の売買」なのかで、必要な条項が大きく変わります。

初めての方におすすめの入手方法は以下の通りです。

  • 公的機関や業界団体の公開雛形: 経済産業省や各種商工会議所、業界団体が公開するものは、法的に問題のない内容が多く、信頼性が高いです。
  • 法務関連の専門サイト: 弁護士事務所や司法書士事務所が運営するサイトで無料公開されている雛形も、実務経験に基づいて作られており安心です。
  • 書籍の付録: 法律実務書の巻末に収録されている契約書式は、解説付きで理解しやすいでしょう。

ただし、無料の雛形を使う際には注意が必要です。まず、作成・更新された時期を確認してください。法律は改正されることがあるため、古い雛形だと現在の法律に合わない可能性があります。また、汎用的な雛形はそのまま使えるとは限らず、自分の取引に合わせてカスタマイズする必要があります。

利用規約も必ず確認しましょう。商用利用が禁止されていたり、改変が認められていなかったりする場合もあります。ビジネスで使う契約書の場合、利用条件を守らないと著作権の問題に発展する可能性もあるため注意しましょう。

ステップ3:必須記載項目の記入

雛形を手に入れたら、いよいよ具体的な記入作業です。ここで重要なのは、「法律上、最低限これだけは書いておかないとマズイ」という必須記載項目を確実に埋めること。この項目が抜けていると、最悪の場合「契約が無効」と判断されたり、後々のトラブルで不利になったりする可能性があります。

売買契約書の必須記載項目は主に以下の6つです。

  • 契約当事者の情報
    売主と買主の正式な氏名(法人なら正式な会社名)、住所、連絡先。法人の場合は代表者の役職・氏名も必要です。個人事業主は屋号だけでなく本名も記載します。
  • 売買の目的物
    何を売買するのか、誰が見ても誤解のないよう具体的に。「パソコン」ではなく「メーカー名〇〇、型番△△のノートパソコン1台、シリアル番号□□」のように記載します。
  • 売買代金の金額
    総額を明記し、消費税込みか税抜きかも明確に。分割払いの場合は、各回の金額と支払期日も記載します。
  • 支払方法と期日
  • 「現金手渡し」「銀行振込」など支払手段と、「〇年〇月〇日までに」という具体的な期日。
  • 引渡しの時期・場所・方法
    「〇年〇月〇日に」「売主の事務所にて」「買主が自ら受け取る」など、5W1Hを意識して明確に。
  • 契約日と署名・押印欄
    契約を締結した日付と、双方が署名(または記名)・押印する欄。

記入作業は、可能であればパソコンで行うことをおすすめします。手書きだと誤字があった場合の訂正が面倒ですし、読みにくい文字だと解釈の相違が生まれる原因になります。最終的な署名・押印は手書きで行うのが一般的です。

ステップ4:トラブル回避条項の追加

必須項目を記入したら、次は「トラブル回避条項」の追加です。必須項目だけでは、取引がスムーズに進んだときは問題なくても、トラブルが起きたときに「契約書に書いてないから対処できない」という事態になりかねません。

トラブル回避条項には、いくつかの種類があります。ここでは、初めての方でも取り入れやすい主要な条項を紹介します。

瑕疵担保責任(契約不適合責任)に関する条項は、売買契約において特に重要です。これは「引き渡した商品に欠陥があった場合、売主がどこまで責任を負うか」を定めるものです。例えば「引渡し後7日以内に買主が欠陥を発見し通知した場合、売主は無償で修理または代替品と交換する」といった内容を記載します。

遅延損害金の条項も重要です。買主が代金の支払いを遅延した場合、「年利〇%の遅延損害金を支払う」と定めておけば、期限を守るインセンティブになりますし、実際に遅延があった場合の損害をカバーできます。ただし、年利の上限は法律で定められているため、高すぎる設定は無効になる可能性があります。

解除条項も忘れずに入れましょう。「どのような場合に契約を解除できるか」を明確にしておくことで、取引が履行不能になったときの処理がスムーズです。例えば「買主が支払期日から〇日を過ぎても代金を支払わない場合、売主は無催告で契約を解除できる」といった内容です。解除した場合の損害賠償や、すでに受け取った代金の返還についても合わせて規定しておくと安心です。

これらの条項を追加する際は、「相手にとって一方的に不利な内容」になっていないか確認してください。あまりに一方的な条項は、公序良俗違反や消費者契約法違反として無効になる可能性があります。バランスの取れた内容にすることが、結果的に契約の有効性を高めます。

また、特殊な取引の場合は、その取引特有のリスクに対応した条項も必要です。例えば、天候に左右される屋外イベントのグッズ販売なら「天災等により引渡しが不可能になった場合の処理」を定めておく、といった具合です。自分の取引で「こんなことが起きたら困るな」と思えば、それに対応する条項を追加しましょう。

ステップ5:最終確認と署名・押印手続き

ここまでの作業で契約書の中身は完成ですが、まだ署名・押印はしないでください。最後に行うべきは、徹底的な最終確認です。この確認作業を怠ると、せっかく丁寧に作った契約書も台無しになってしまいます。

最終確認では、以下のポイントをチェックしましょう。

  • 誤字・脱字がないか:
  • 記載内容が事実と一致しているか
  • 矛盾する条項がないか
  • 抜け・漏れがないか
  • 双方の署名・押印欄が準備されているか

確認作業は、できれば第三者にも見てもらうことをおすすめします。自分だけで何度も読んでいると、見落としに気づきにくくなるためです。

契約書は通常、2通作成して、双方が1通ずつ保管します。同じ内容のものを2通印刷し、両方に双方が署名・押印しましょう。片方だけに署名して相手に渡してしまうと、後から内容を改ざんされるリスクがあるため、必ず両方に署名が入った状態で交換します。

署名・押印の方法にも注意点があります。個人の場合は実印を使う必要はありませんが、認印でも構わないので必ず押印してください。署名だけでも法的には有効ですが、日本の商習慣では押印があったほうが信頼性が高いと見なされます。

押印する位置も重要です。署名欄に押すのはもちろん、複数ページにわたる契約書の場合は、ページのつなぎ目に契印(割印)を押すことをおすすめします。これにより、ページの差し替えや抜き取りを防げます。契約書を訂正した箇所がある場合は、訂正印を押して「〇字削除〇字加入」と記載するのが正式な方法です。

署名・押印が完了したら、双方が1通ずつ受け取り、大切に保管してください。契約書の保管期間は取引の種類によって異なりますが、一般的には最低でも5年間は保管を推奨します。税務調査が入った場合や、後々トラブルになった場合に、契約書が証拠として必要になるためです。

最後に、もし契約書の内容に少しでも不安がある場合は、署名する前に専門家に相談することを強くおすすめしますします。「相手を待たせているから」と焦って署名すると、後で取り返しのつかないことになる可能性もあります。弁護士や司法書士に契約書をチェックしてもらうだけなら、数万円程度の費用で済むことが多く、トラブルを未然に防ぐことにつながります。

無料テンプレート活用時の注意点

インターネットで「売買契約書 テンプレート」と検索すれば、たくさんの雛形が無料で手に入ります。便利で手軽に見えますが、そのまま使うと、思わぬトラブルに巻き込まれることも。大切なのは「どう選ぶか」と「どう使うか」です。初めて契約書を作る方が安心して雛形を活用できるよう、実践的なポイントと、よくある失敗例を解説します。

無料テンプレートは、契約書作成の最初の一歩としてとても便利なツールです。ただし、テンプレートはあくまで「ひな型」であり、そのまま使えば安心というわけではありません。あなたの取引に合った内容に調整すること、そして法的に問題がないかを確認することが大切です。

特に、ネット上には無数のテンプレートがあり、中には「古い法律に基づいている」「重要な条項が抜けている」「曖昧な表現が多く、後でトラブルになりやすい」といったものも含まれます。どのテンプレートを選び、どう使うかで、契約後の安心感が全く変わってきます。

ここからは、「選び方」と「使い方」の両面から、具体的なポイントをお伝えします。

あなたに最適なテンプレートの選び方

無料のテンプレートを選ぶときにまず意識してほしいのは「自分の取引の内容と、テンプレートの想定シーンが一致しているか」という点です。売買契約書には、不動産用・動産用・商品売買用など種類があるため、「何を売り買いするのか」を明確にしたうえで、それに合った雛形を探すのが第一歩です。

次に確認すべきは、そのテンプレートがどこから提供されているかです。公的機関、信頼できる士業団体、専門の法律サイトなどが提供しているものは、比較的安心できます。一方で、個人ブログや古い情報のまま放置されているサイトでは、法改正に対応していなかったり、誤った情報が含まれていたりする可能性も。提供元の信頼性は、選ぶうえでの重要な判断基準になります。

また、テンプレートの「記載項目の網羅性」もチェックしましょう。

最低限、以下のような項目が含まれているかを確認してください。

  • 売主・買主の氏名(会社名)と住所
  • 売買の対象物(商品名・型番・状態など)
  • 代金の金額・支払い方法・支払い期日
  • 引渡しの時期・方法
  • 契約解除や損害賠償に関する取り決め
  • トラブル時の解決方法(協議・裁判管轄など)

雛形カスタマイズ時の注意と、よくある失敗例

テンプレートをダウンロードしたら、そのまま使うのではなく、必ず「あなたの取引に合わせて書き換える」作業が必要です。この工程を「カスタマイズ」と呼びますが、ここでのミスが後々のトラブルにつながるケースが非常に多いのです。

まずよくある失敗例として、「空欄をそのまま残してしまう」ことが挙げられます。代金の金額や支払期日、引渡しの時期などが空欄のままでは、後から「言った・言わない」のトラブルになりやすくなります。契約書は、口約束の証拠として機能するものですから、曖昧な部分や空欄がある状態で署名してしまうのは非常に危険です。すべての空欄に、具体的で明確な情報を記入するようにしましょう。

次に注意したいのが、「専門用語や法律用語をそのまま残してしまう」こと。テンプレートには、「瑕疵担保責任」「危険負担」「解除権の行使」といった法律用語が含まれることがあります。これらの意味を理解しないまま使ってしまうと、いざ問題が起きたときに「こんな内容だと思わなかった」となりかねません。分からない用語があれば、契約前にしっかり調べるか、専門家に確認することが大切です。

また、「必要のない条項を削除してしまう」失敗も見られます。例えば、商品に欠陥があった場合の返品・返金に関する項目を、「うちは中古だから関係ない」と思って削るケースです。しかし実際には、中古であっても品質保証や不具合時の対応は取り決めておくべきで、その条項がないと、クレームになったときに対処が困難になります。削除する前に、その条項が本当に不要かどうか、慎重に判断してください。

さらに、「日付や署名の記入漏れ」も意外と多い失敗です。契約書の最後に「契約日」「署名・押印」の欄がありますが、これが空白だったり、片方しか署名していなかったりすると、契約が成立していないと見なされることがあります。双方がしっかり署名し、日付を記入し、必要であれば押印まで行うことで、初めて法的に有効な契約書となるのです。

最後に、テンプレートをカスタマイズしたあとは、できれば第三者に確認してもらうのが理想です。自分で作った契約書は、どうしても「これで大丈夫だろう」という思い込みが生まれやすいものです。もし身近に法律に詳しい知人がいれば、目を通してもらうだけでもリスクを減らせます。また、契約内容が複雑だったり、金額が大きかったりする場合は、司法書士や弁護士といった専門家に事前チェックをお願いすることも、トラブル予防の有効な手段です。

よくある疑問・トラブル事例Q&A

「面倒だから」「相手との関係を壊したくないから」という理由で契約書を省略したことが、後になって大きなトラブルの原因になるケースは決して珍しくありません。ここでは、実際に起こりやすい疑問やトラブル事例をもとに、どんなリスクがあるのか、どう対処すればいいのかを具体的に見ていきましょう。

口約束の法的効力とリスク

「契約書がなくても、口約束だけで契約は成立する」――これは法律的には正しい理解です。日本の民法では、売買契約は当事者同士の「合意」があれば成立するとされており、必ずしも書面が必要なわけではありません。

ただし、ここで注意したいのは、「契約が成立する」ことと「契約内容を証明できる」ことは全く別の問題であること。口約束だけでは、万が一トラブルになったときに自分の主張を証明する手段がほとんどありません。

実際にこんなケースがありました。知人に中古カメラを5万円で売る約束を口約束で済ませたところ、引き渡し時に相手が「3万円って言ったよね?」と主張し始め、結局証拠がないために泣き寝入りするしかなかったそうです。こうしたケースでは、たとえ自分が正しくても、契約内容を立証する書面やメール、メッセージ記録などがなければ、裁判や調停でも不利になります。

契約書なしで取引する際のリスク

契約書がない状態で売買を進めてしまうと、どんなリスクがあるのでしょうか。先ほどの「言った・言わない問題」だけでなく、もっと深刻な事態に発展する可能性もあります。

まず、商品に欠陥があった場合の責任の所在が不明確になります。例えば、中古パソコンを売ったとして、購入者が「動かない」と主張してきたとき、あなたは「引き渡し前は正常に動いていた」と言いたいかもしれません。しかし、契約書に動作確認の内容や引き渡し時の状態、保証の有無などが書かれていなければ、どちらの言い分が正しいのか判断する材料がありません。結果的に、「返金しろ」「修理費を払え」と言われても、反論する根拠が弱くなるのです。

次に、支払いトラブルのリスクがあります。「来月払います」と言われて商品を先に渡したのに、いつまで経っても支払われない。催促しても「もう少し待って」と言われ続け、そのうち連絡が取れなくなる――こういうケースも珍しくありません。契約書があれば、支払い期限や遅延した場合の措置(遅延損害金、所有権の留保など)を明記しておけるため、万が一のときも法的手段を取りやすくなります。

作成後の内容変更・解約の正しい方法

一度作り終えた契約書でも、双方の合意があれば、契約内容の変更や解約は可能です。ただし、その際にもきちんと書面で記録を残すことが重要です。

契約内容を変更したい場合は、「変更契約書」または「覚書」を作成するのが一般的です。例えば、引き渡し日を延期したい、代金の一部を減額することにした、といったケースがあります。このとき、元の契約書と矛盾しないように、「〇年〇月〇日付売買契約書の第〇条を以下のとおり変更する」という形で明記します。変更内容だけでなく、変更日、双方の署名・捺印も忘れずに行いましょう。

もし契約そのものを解約したい場合は、「合意解約書」を作成します。解約の理由、解約日、すでに支払われた代金の扱い、引き渡し済みの商品をどうするか、といった点を明確に記載してください。ここで曖昧にしてしまうと、解約したはずなのに後から「やっぱり返金しろ」「商品を返せ」といった二次トラブルに発展する可能性があります。

一方的な解約を検討する場合は、さらに慎重になる必要があります。相手が契約違反をしている場合に限り、契約解除が認められることがありますが、その際は内容証明郵便で解除通知を送るなど、正式な手続きを踏むことが重要です。勝手に「もう契約はなかったことにする」と判断すると、逆にあなたが契約違反を問われるリスクもあります。

変更や解約は、感情的にならず、冷静に話し合い、必ず書面で残すこと。それが、後々のトラブルを防ぐ最大の防御策になります。

曖昧な表現によるトラブル実例と改善策

契約書を作ったのにトラブルになるケースもあります。その多くは、契約書の文言が曖昧だったため、お互いの解釈にズレが生じてしまったことが原因です。

例えば、こんな実例がありました。自動車売買契約書に「車両は良好な状態で引き渡す」と書いたものの、引き渡し後に買主から「エアコンが効かない。良好な状態じゃないじゃないか」とクレームが入りました。売主は「エンジンやブレーキに問題がなければ良好だと思った」と主張しましたが、買主は「エアコンも含めて全部が正常であるべきだ」と反論。結局、双方の認識の違いが原因で返金騒動に発展してしまいました。

この場合、契約書に「良好な状態とは、エンジン・ブレーキ・ハンドル操作に支障がないことを指し、エアコン・カーナビ等の付属設備については現状有姿での引き渡しとする」といった具体的な定義を書いておけば、こうしたトラブルは防げたでしょう。

他にも、「なるべく早く支払う」「できるだけ綺麗な状態で渡す」「適切な方法で配送する」といった表現も要注意です。これらはすべて主観的で、人によって解釈が異なります。「なるべく早く」は1週間なのか、1ヶ月なのか?「綺麗な状態」はクリーニング済みなのか、ホコリを払った程度なのか?こうした曖昧さが、後のトラブルの火種となります。

曖昧な表現を避け、具体的で測定可能な言葉を使うこと。それが、契約書を「ただの紙」から「実効性のある約束」に変える鍵となります。

専門家への相談で安心を手に入れる

初めて契約書を作る方にとっては、「具体的にどう書けばいいのか」「自分のケースではどんな条項が必要なのか」を判断するのは簡単ではありません。ネットの情報を頼りに自己流で作ってしまうと、かえって不十分な内容になり、トラブル時に役に立たない可能性もあります。

そんなときは、弁護士や司法書士といった専門家に相談することをおすすめします。専門家は、あなたの取引内容や状況に応じて、どんなリスクがあるか、どんな条項を盛り込むべきかを的確にアドバイスしてくれます。契約書のチェックや作成代行も依頼できるため、安心して取引を進められます。

「専門家に頼むとお金がかかる」と思うかもしれませんが、後になって数十万円、数百万円のトラブルに巻き込まれるリスクと比べれば、事前の相談費用は十分に価値のある投資です。初回相談無料の事務所も多いため、まずは気軽に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

まとめ|安全な売買契約書作成のためのチェックリスト

最後に、契約書作成の最後に確認したいポイントと、専門家相談の目安をまとめました。このチェックリストを活用し、安心して取引を進めてください。

作成前に必ずチェックしたい3つのポイント

売買契約書を作成する際、細かい項目はたくさんありますが、「最低限これだけは見落とさないで」というポイントが3つあります。

1つ目は、「誰が・何を・いくらで」が明確かどうかです。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実際には「売主の住所が省略されている」「商品の型番や状態が書かれていない」「税込なのか税抜なのか曖昧」といった契約書が意外と多いのです。曖昧さをなくすために、誰が見ても同じ解釈になるよう、具体的な情報を漏れなく記載しましょう。

2つ目は、支払い方法と引き渡しのタイミングが合意されているかです。お金を払うタイミングと、商品を受け取るタイミングがずれると、どちらかが不安を抱えることになります。「全額支払ったのに商品が届かない」「商品を渡したのに残金が払われない」といったトラブルは、このタイミングの認識のズレから起こります。契約書には、「〇月〇日までに指定口座へ振込」「入金確認後3営業日以内に発送」など、具体的な日付や条件を書いておくことが大切です。

3つ目は、キャンセルや返品のルールが書かれているかです。契約後に「やっぱりやめたい」となることは、誰にでも起こりえます。そのときに、どちらがどう対応するのかが決まっていないと、感情的な対立に発展しやすくなります。また、商品に不具合があった場合の返品対応や、返品時の送料負担についても決めておくと、後々のトラブルを避けられます。特に個人間取引の場合、「ノークレーム・ノーリターン」という言葉で済ませがちですが、法律的には無効になる場合もあるため、きちんとルールを設定しておくことが重要です。

専門家相談が必要な場合の判断基準

ここまでのチェックリストを使えば、ある程度の契約書は自分で作れるかもしれません。ただ、すべての契約を自分だけで対応するのは、やはり不安が残る場合もあるでしょう。では、どんなときに専門家に相談したほうがいいのでしょうか。ここでは、「これに当てはまったら相談を考えたほうがいい」という判断基準をご紹介します。

まず、契約金額が大きい場合です。 明確な基準があるわけではありませんが、一般的には「数十万円以上」「自分の年収の数か月分以上」といった金額になると、万が一のトラブル時の損失が大きくなります。数千円の小物を買う契約なら、多少の行き違いがあっても大きな痛手にはなりませんが、100万円の中古車や、500万円の不動産となると話は別です。金額が大きいほど、契約書の不備が大きな損失につながるため、専門家(弁護士や行政書士)に事前チェックをしてもらうことで、安心感が大きく変わります。

次に、契約の相手が法人や事業者の場合です。 個人間の取引であれば、多少の曖昧さがあっても話し合いで解決できることが多いですが、相手が法人や事業者の場合、契約書の内容がそのまま法的な判断材料になります。特に、事業者側が用意した契約書には、「返品不可」「瑕疵担保責任を負わない」といった、消費者側に不利な条項が含まれている場合もあります。こうした契約書を受け取ったときに、「この条項は法的に有効なのか?」「自分に不利な内容になっていないか?」を自分で判断するのは難しいため、署名・押印する前に専門家に確認してもらうことをおすすめしますします。

また、契約内容に「継続的な義務」や「将来的な条件」が含まれる場合も注意が必要です。 一度の取引で終わらない契約の場合、将来的にどんな義務が発生するのかをきちんと理解しておかなければ、「こんなはずじゃなかった」となるリスクがあります。こうした継続的な契約は、条項の解釈や、途中解約の条件などが複雑になりやすいため、契約前に専門家のアドバイスを受けておくと安心です。

専門家への相談は、「トラブルが起きてから」ではなく、「トラブルを未然に防ぐため」に行うものです。状況に応じて、弁護士や行政書士といった専門家に早めに相談することで、契約書の不備を事前に修正したり、自分に合った対応方法を見つけやすくなります。特に、初めての契約や高額な取引の場合は、「相談する」という選択肢を持っておくことが、安全な契約への第一歩となります。

editer

editerのアバター

※当社(株式会社WEBY)は直接債務整理のサービスを提供しておらず、債務整理の相談や依頼については紹介事務所へのリンク先で対応となるため、当サイトでは債務整理に関する個人の相談や質問にはお答えできません。
当サイトのコンテンツは事実に反しないよう尽力していますが、内容の正確性や信頼性、安全性を担保するものではありません。
債務整理の無料相談や依頼にお申し込みされる際は各弁護士事務所・司法書士事務所等の公式ホームページに記載されている内容をご確認いただき、自己判断していただけますようお願いいたします。
当サイトは株式会社WEBYと提携する企業のPR情報が含まれます。
当サイトで掲載しているコンテンツは個人および法人へ向けた情報提供が目的であり、債務整理を提供する事業者との契約代理や媒介、斡旋を助長するものではありません。

CONSULTATION

目次 ▼