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株式譲渡無効訴訟とは?経営権を守る基礎知識とトラブル事例を解説

訴訟・紛争解決

2025.02.072025.02.21 更新

株式の全部譲渡は会社のオーナーシップそのものを譲渡する手続きです。一部譲渡の場合でも、原則として議決権の移転を伴うため会社の経営に大きな影響を与えます。そのため、株式譲渡はその有効性がしばしば争いになり、企業の支配権争いに発展することもあります。

株式譲渡を無効と主張する場合の根拠としては、まず民法上の詐欺や強迫、錯誤、または公序良俗違反などが上げられます。また会社法上の根拠として譲渡承認請求の否認や株券の不交付が挙げられるでしょう。

株式譲渡契約の内容や表明保証に違反があった場合にも、損害賠償または契約解除の効力等で争いになるケースもあります。

裁判例も多数ありますが、企業や株主の状況によって事情は変化するため、判決を鵜呑みにせず個別の事案についての検討が必要です。本記事では、株式譲渡の有効性や訴訟の手続き等を簡単に解説していますのでぜひ参考にしてみてください。

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株式譲渡とは

株式譲渡とは、株式の所有者が他者に株式を譲り渡すことです。個人か法人か、または有償か無償かを問いません。

株式譲渡は有償譲渡の場合は売買、無償譲渡の場合は贈与にあたり、土台として民法の典型契約である売買契約や贈与契約の規定が適用されます。

全ての株式を譲渡することを株式全部譲渡、一部の譲渡を株式一部譲渡と言います。

株式の全部譲渡は、議決権や配当を受ける権利などすべての株主の権利を譲渡する取引であり、会社の所有権そのものを新オーナーに移転する手続きと言えます。

なお広い意味では一般の株式市場における売買も株式の譲渡と言えますが、株式譲渡と言うと、非公開株式の取引を指す言葉として使われることが多いです。

株式の譲渡制限とは、会社が経営権を守るための仕組み

株式は、市場で売買される公開株式と、市場には流通しない非公開株式に分類できます。

非公開の株式を、会社法では『譲渡制限株式』と言います。日本においては99%以上の中小企業が非公開株式のみを発行する非公開会社です。

非公開株式の場合、各会社の定款において譲渡の承認を決定する譲渡承認機関が定められており、「会社」「株主総会」「取締役会」などが一般的に譲渡承認機関として指定されます。

株式譲渡が会社・当事者に与える影響

株主は、原則として1株につき1議決権を持つため、株式譲渡によって株主が変わると会社の議決権に影響を与えます。(例外として、議決権制限株式や単元未満株などの規定により議決権を持たない株式もあります。)

定款または会社法で定められた一定以上の割合の株式を持つと、株主総会の議案を提出できたり、役員の選任にも影響を与えたりするなど、保有率が増えるほど段階的に株主が会社に及ぼす影響は大きくなります。

株式を全部保有する株主は、原則として会社における全ての決定権を持つと言えます。

また、株式は譲渡取得が可能な資産であり、譲渡所得税等の対象にもなります。

このように、経営権や課税の有効性等のさまざまな観点から、株式の移転が有効か無効か争われることがあります。

株式移転、株式交換、株式交付と株式譲渡の違い

株式譲渡と似た言葉で『株式移転』『株式交付』『株式交換』があります。しかしこれらは株式譲渡とは全く別の手続きであることに注意が必要です。

株式移転、株式交換、株式交付の大まかな意義は以下のとおりです。

  • 株式移転 既存企業(1社または複数社)が新たな特定親会社を作り、グループ化する企業再編手続
  • 株式交換 ある会社が他の会社を子会社とするために、当該会社の株主と自社株を交換する再編手続
  • 株式交付 ある会社が他の会社を子会社とするために、自社株を対価として、譲り受ける企業に交付する再編手続

これらは会社法上の手続きであり、無効を訴える場合は会社法で定められた一定の要件のもとで訴訟を行う必要があります。

これに対して株式譲渡は株式の売買や贈与であるため、無効を主張する際に必ずしも訴訟による必要はありません。

株式譲渡が無効となる要件とは?

株式譲渡が無効となるには、民法や会社法の面からさまざまな要件が考えられます。

まず、株式譲渡は民法上の売買や贈与契約等がベースとなるため、民法一般規定による心裡留保や通謀虚偽表示による無効のほか、公序良俗に反する契約による無効も考えられます。

または、錯誤・詐欺・強迫等による取り消しなども根拠として考えられます。

会社法においては、譲渡承認の有無や株券発行会社の場合には株券交付の有無が問題になることもあります。

なお、株式譲渡契約はひとつの契約であるため、当事者間での効力と会社に対する効力は別で考える必要があります。

株券不発行会社における譲渡承認の影響

事例として、非公開会社かつ株券不発行会社において、AがBに株式を譲渡するケースを考えてみましょう。

AB間で株式譲渡契約を行った場合、この契約はAB間で有効であり、BはAに対して株式を引き渡すよう請求する権利を持ちます。そして、AとBは会社法36条または37条の規定により、会社に対して譲渡を承認するか否かを決定するよう請求できます。

譲渡承認請求を受けた会社は、定款で定めた譲渡承認機関によって、株式譲渡を承認するかしないかの決定をします。このとき、会社が譲渡を承認していない段階ではBへの株式譲渡の効果ははく、会社はBを株主として取り扱う必要はありません。

本請求を会社が承認すると、会社との関係でも無事にBが株主になります。

会社が譲渡承認を拒否するとBは株主になることはできず、Aは契約を履行できないことになります。ゆえにAB間の契約については、解除や損害賠償等によって解消することになります。

このような場合に備え、一般的な株式譲渡契約では『会社の譲渡承認機関による譲渡の承認を得られない場合には、白紙解約できるものとする』等の条件を盛り込んでおきます。

株券発行会社における株式譲渡の有効性

会社法128条1項前段では『株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。』と定められています。

ただし判例によると、効力が生じないのは会社との関係においてであり、先ほどのABの事例においては譲渡の債権的な効力はあるものと解されています。

ゆえに、同事例において株式譲渡の効力を会社に対抗するには、やはり譲渡承認請求が必要になる上に、株券の交付も必要ということになります。

なお、2006年の会社法改正により、現在は株券不発行が原則となっていますが、それ以前は株券発行が原則でした。株券発行の会社は依然として残っているため、事業承継等を株式譲渡によって行う際には株券の確認は必須となります。

株式譲渡無効訴訟

株式譲渡無効訴訟とは、株式の譲渡行為が法的に無効であることを確認するために提起される民事訴訟です。

ただし「株式譲渡無効訴訟」という固有名詞があるわけではありません。無効確認の訴えと言い換えるだけの場合もありますし、有効性を確認したい側からすると有効確認訴訟と呼ぶ場合もあるでしょう。

また有効を前提として『取消し』を対象として訴訟提起する場合もあります。

株式譲渡の無効・取消訴訟の流れ

株式譲渡無効訴訟の手続は、一般的な民事訴訟の流れに沿って進行します。

訴訟は原告が訴状を裁判所に提出することから始まりますが、その前に民事保全手続を行うケースもあります。

例えば、譲渡後の新株主によって既存の取締役が解任され、新取締役が加入したようなケースです。そして新取締役の暴走によって経営難に陥る蓋然性がある場合などは、緊急で職務を停止する必要があると考えられるでしょう。

このような場合、株式譲渡の有効性を争う訴訟に先立ち、当該役員の職務停止を求める民事保全手続が必要となるケースもあります。

訴状の提出後は、被告に対して訴状の送達が行われ、準備手続や期日の決定など、通常の訴訟の流れに入っていきます。

株式譲渡のよくあるトラブル事例を紹介

株式譲渡について争われる典型的な事例を紹介します。

ただし個別事例において考慮すべき点は変わります。お悩みがある場合には、必ず自己判断せずに弁護士へご相談ください。

事例1)株券不発行会社における株式譲渡の有効性

株券発行会社において株券不発行のまま行われた株式譲渡につき、その譲渡の有効性および株主の地位が争われるケースがあります。

この場合、前提となる契約が有効か、譲渡承認機関の承認を得ていたかなどがポイントとなるでしょう。

昭和47年の判例では、会社が不当に株券の発行を遅滞して信義則に照らして株式譲渡の効力を否定することを相当としない状況においては、株券の引き渡しなく有効に譲渡が成立するとされています。

事例2)詐欺や強迫により株式の譲渡を行われる事例

経営権争いのために、特定の株主に対して嘘の情報を流して株式を手放させるという事件も少なくありません。

この場合、民法上の詐欺や強迫、または錯誤等の要件に該当するか否かなどが争点になるでしょう。

事例3)表明保証の違反

株式の全部譲渡は会社のオーナーシップの変更であり、会社そのものの譲渡を意味します。

そのため株式譲渡契約においては、対象となる会社において、株式譲渡時点において訴訟される恐れがないことや、従業員への未払い残業代がないことなどを表明保証する場合があります。

譲渡のクロージング後にこうした表明保証についての違反が発覚した場合、損害賠償で解決するか株式譲渡を無効とするか、などで争われるケースがあります。

このような争いは事前調査の徹底や適正な解約手続きの設定によって回避できる場合があります。

事例4)譲渡所得税

株式は金融資産であり、譲渡益については譲渡所得税の対象となります。

そのため、株式の譲渡があった際には効力発生日が重要な問題となります。

また譲渡契約後に解約した場合には、実態として株式の移転があったのか、移転されずに白紙解約されたのか、なども税制の面では重要となり、争点になることがあります。

株式譲渡の有効性が与える企業経営への影響

株式譲渡の有効性が争われる場合、株券の交付の有無のほか、譲渡承認機関の承認の有無、また前提となる契約の有効性、表明保証違反などが争われるケースが多いです。

平成21年、電子化によって上場企業の株券発行は全て無くなったほか、2006年の改正により非公開会社においても株券は不発行が原則になっています。しかし、株券発行会社のままになっている会社も少なからず存在します。

事業承継などM&Aを行う場合、株券発行会社が株式譲渡を行うには株券を発行して引き渡すか、株券不発行会社への定款変更を行ってから株式譲渡のクロージングを行う方法があります。

また株券発行会社が不発行会社となるには、当該定款変更の効力発生日の2週間前までに既存の株主に通知し、かつ定款に定めた方法により公告を行う必要があります。

株式譲渡契約を行う際には、こうした条件にも注意し、株式の移転時期、移転方法、定款変更の有無、定款変更が可能な議決権を譲渡人が有するのか、などの詳細な確認が必要です。

トラブルを避けてスムーズな株式譲渡を行うには、専門家である弁護士、司法書士、税理士へ相談すると良いでしょう。

株式譲渡について弁護士に相談するメリット

株式譲渡は複雑な法的手続きや税務を伴うため、専門知識を持つ弁護士に依頼することで多くのメリットがあります。

弁護士は法律の専門家として、訴訟の戦略立案や証拠収集、書類作成など、全般的なサポートを提供します。また、相手方との交渉や和解の可能性を探ることもできるため、訴訟を回避できる可能性も高まります。

株式譲渡について訴訟になる場合、十分な証拠の収集と適切な主張の組み立てが重要です。弁護士は、これらの点に注意を払いながら、依頼者の利益を最大限に守ることができます。また、訴訟費用や期間についても現実的な見通しを立てることができるため、依頼者は心理的・経済的な負担を軽減できます。

実務上の課題とその対応策

株式譲渡の実務において、企業や関係者が直面する課題は多岐にわたります。

  • 会社財産の調査および譲渡金額の設定
  • 譲渡承認請求の承認の可否
  • 表明保証
  • クロージングの日程
  • 株券交付または株券発行会社の定め廃止
  • これらを踏まえた契約書の作成

特に重要なのが、トラブルの予防と株式譲渡の目的の実現です。

株式譲渡により譲受人は会社の役員選任権などを持つため、会社資産だけでなく従業員の生活にも大きく影響を与える可能性があります。

詳細をしっかりと把握し、ウィンウィンな関係を築くことが株式譲渡を成功させ、訴訟等のトラブルを回避する土台となります。そのためには法律の知識は欠かせません。

株式譲渡については自己判断せずに専門家に相談することが大切です。

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司法書士 白河(筆名)

2019年司法書士登録 補助者時代から複数の事務所勤務を経て2021年独立。同時にWebライター・記事監修業務を開始。 できるだけ一般的な表現での記事作成を心がけているます。法律関係の諸問題は、自己判断せずに専門家に相談することが解決への近道です。

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